2018年9月23日(日)東京都千代田区日本教育会館で開催された「第8回日本認知症予防学会学術集会」のポスターセッションに参加しました。
ポスターのタイトルを、
“1次予防から3次予防まで同時に役だつ「みんなの認知症予防ゲーム」”
としました。
この表現に自信を持たせて下さったのは、認知度4から1の、認知症専用のデイサビスセンターの利用者さんたちです。
昨年の4月から継続してボランティア活動で通っているデイサービスセンターは、京都市内にありますが、その中のレベル3の方が、ある日の教室が終わって、私が帰り支度をしている時に、呟くように、「この時間が一番楽しいわ」と言われたのです。
デイサービスですから、職員によって各種のアクティビティが毎日さまざま行われています。その中で、「一番楽しい」との評価を頂いた・・・、是こそが私たちのNPO法人が全国普及を目指して取り組んでいる、「みんなの認知症予防ゲーム」に対する、当人からの評価でなくて何でしょう。
ゲームでの訪問を受け入れていただいて、レベルが混在している皆さんに喜んでいただいて、初めて聞いたナマの言葉で、深い感慨に浸りました。
それで今年の予防学会でのポスターのタイトルに、上記のように標榜しました。
デイーサービスの現場でも、一般社会でも、認知機能は人さまざまで、謂わばどこでもレベル混在社会です。
その中で、レベルを揃えた認知症予防教室を実施して改善・悪化防止の成果があがっても、家庭に戻ればレベル混在であり、ご近所、町内、地域全体がレベル混在社会です。換言すれば、認知症への偏見や不適切な関わりがある社会です。レベル混在の世の中で生きるに際しては、みんなが同じ人間同士という気持ちで暮らせる“共生社会”でなければ、折角症状にストップをかけ、改善されても、同時に社会の意識改革が実現しなければ、暮らしにくい中に居続けることになります。
私共NPO法人の設立時(2004年)に定めた定款の目標2箇条の一つは、「社会教育の推進」です。
個人の症状を改善すると同時に、受け皿として共生社会の実現がなくては、認知症に対する偏見社会の中に戻ることになるでしょう。
ポスターに、クリスティーン・ブライデンさんの述懐を紹介しています。京都市で初めて行われた“国際アルツハイマー病協会第20回国際会議・京都・2004”の時に、NHKテレビがクリスティーンさんを取材された放映を見たのですが、その中で彼女は、認知症になって困ることの一つとして、エスカレーターの降りの乗り場で、下へ下へと階段が機械のリズムで、すっ、すっ、すっと出てくる、そのリズムに足を合わせることができなくて、いつまで経っても1歩が踏み出せない苦衷を話されたのです。
私は実母の認知症介護を在宅で最後まで見送りましたが、母には、エスカレーターの経験はありませんでした。リズムに乗れなくなられたクリスティーンさんから、認知症になるとリズム音痴になると初めて教えられました。胸がふさがるような思いをズーッと持ち続けて、リズム音痴になる認知症への対策を、模索し続けていました。
私は実母が認知症を患うまでの前半生では、和楽の太鼓などのリズムに日常的に浸っていたので、リズム音痴の人の改善法は、子どもたちへの太鼓の練習体験を持っていたので、リズムを失った後の対策に関して、人一倍責任感のような思いを持ったのでした。
その対策を開発したのが、ポスターに書いた童謡の使い方、「5段階加速法」なのです。
今ではこの方法を使って、認知症専用のデイサービスや、健常者9に対する認知症発症者1の割合の教室、すなわちレベル混在の教室で、全員同時に楽しんでいただき、イキイキと和合して頂いています。
リズム感を取り戻した結果は明らかです。家族同伴で教室に参加していた若年発症の方は、会場に到着して部屋に入るときは堅い表情、下を向いて他人と視線を合わさない、頬の血色はグレイと言ってもよいような、硬直した雰囲気なのに対して、ゲームでリズムに乗るようになると、別人のように笑顔になり、声をあげて笑ったり、帰る時はピンク色の頬になって、「また来ます〜♪」と明るく言うように変化されます。それを毎月くり返し、半年1年と経過すると、一人で参加ができるようになり、入室時から顔を合わせて挨拶をするようになり、外で出会っても顔を覚えて笑顔で挨拶をされるように変化されました。
こういうリズム感の取り戻し効果について、事例紹介を話すだけでは、ポスター展示場に集まられた皆さまのご理解は難しいと思い、その場で実際に体験していただき、体験に基づいてご理解いただくように、次のように言いました。
「まずは右手をチョキにしてください。左手はグーです。グーを上に載せてください。次は右と左を反対です。是を交互にくり返しますから一緒に言ってください」と言って「5段階加速法」を皆さんに体験していただきました。
ポスターの5段階加速法の説明の部分を、スマホで撮影する方、メモを取る方、大勢が関心を寄せてくださいました。
今後は、データやエビデンスの資料を集めて、誰にもご理解いただけるように、その方法を考えていきたいと思っています。(髙林)