「誰でもが使える、役に立つ」へ—パナソニック による“農のICT化”
「お客様第一」の哲学と、高い技術力で世界中にファンを持つパナソニック。近年は全カンパニーで、農業分野へ積極的に取り組んでいます。「パナソニックでなぜ農業?」という声も挙がりそうですが、実はパナソニックは1967年に害虫誘引灯を発売するなど、農業分野には長い歴史を持っています。
なかでも「オーブン電子レンジ」や「炊飯器」などの調理家電を世に送り出してきた、家電事業を手掛けるアプライアンス社が注力するのは、双方向クラウド型農業管理システムIT農業「栽培ナビ」。作業履歴やデータ取得・活用を通し生産者の課題解決に向けて提供しています。家電事業で培った、次世代の“農と食”を豊かにする技術と想いに迫りました。
IT農業「栽培ナビ」とは
栽培環境をセンシングするセンサーと連携して栽培データを取得し、出荷予定や販売計画を立てやすくする「圃場の見える化」。クラウドサービスを介して営農指導員と生産者をつなげ、病害虫の被害を受けた作物の画像の送信などから、生産者が迅速且つ正確な栽培技術の助言を受けられる「営農ひろば」。そして、地域に適した農薬のデータベース作りや使用状況を記録できる「農薬管理」な
ど、機能は多岐にわたります。輸出時に必要な農産物の国際水準GAPの取得支援も受けられます。
アプライアンス社の農業に関する取り組みは、2013年にスタートしました。「まず現場のニーズをすくい上げようと、20〜50代の技術者7人が、早朝から晩まで滋賀県の生産者に張り付きました」と、カンパニー戦略本部事業開発センター新規事業開発部部長の桶田岳見(おけた・たけみ)さんは当時を振り返ります。
県内にハウスを借りデータを取りながら農作業をし、病害虫被害や圃場内での肥育の偏りといった課題を体感しました。さらに生産者の最も切実な要望は、「生産性向上による収入の増加」だということを知ります。
また、農業界には、担い手不足、効率化など様々な課題があることを知り、取り組みの必要性を感じました。ただし、高額な投資を要するものは望まれておらず、工夫による解決が必要と痛感しました。
ものづくりを生業とする同社は、3つのキーワードで課題解決を検討しました。
担い手減少解決のため、いつでも簡単に相談できる機能や作業データの蓄積や栽培ノウハウを引き継げる仕組みでスムーズな事業継承に繋げる「人づくり」。
地温など最低限のデータ監視だけで畝ごとの肥育のバラツキを抑え、適切なタイミングでの高品質な作物の栽培を後押しする「ものづくり」の強化。そして収穫時期のタイミングをずらし栽培する冬メロンなど地域ブランドを創出し、市場供給が少ない時期に、収穫してマーケットに送り込む「話題づくり」。
これらの現場での経験を活かして生まれたのが、「栽培ナビ」です。「栽培の記録データをとることは、ベタですがちゃんと押さえないと次のステージに行けない大事なもの」と同部開発第三課課長の新居道子(あらい・みちこ)さんは言います。
地元の地域JAとの共同実験では、ベテランの生産者でも自力では難しかった冬メロンの栽培、データ管理によって無加温で実現することができました。
過去データに基づき、的確なタイミングで農薬散布をする等のノウハウ実施によるコストダウンなど、ICT化での成功体験を積み重ねてもらい、栽培効率化を実現することで、最終的には良質な農産物を消費者が満足できる値ごろ感で届ける。そんな好循環を招きたいといいます。