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 57歳の女性Mさんの悩みは家の中にものが多すぎることです。ゴミ屋敷とまではいかないまでも、床はもので埋まっています。ソファの上には雑誌と洗濯物、食卓も宅配荷物の箱が置かれ、夫は空いたスペースで食事をしています。

 片付けようと思ったけれど、時間がない。Mさんの夫は小さな会社を経営し、朝早く出て帰りは遅く家事は一切しない。そのかわり家事についてとやかく言いません。夫も休みの日は趣味の写真を撮りに出かけほとんど家にいないのです。

 Mさんは夫の会社の経理を手伝いながら家事はもちろん、カルチャーセンターでフラワーアレンジメントを教え、月に数回ボランティアで観光ガイドをし、週に1回は車で片道2時間の実家に行って母親の介護と多忙な日々です。やりたいことはすべてやろうとするので片付ける時間がなくなるそうです。
 そこに大学進学で家を出た24歳の娘から、彼を家に連れてくるのでいえをかたづけておいてほしいというメール。もしかしたら将来のお婿さん? とMさんは慌てました。

ここ数年の夫婦二人の気ままな生活で、片付けは「そのうちすればいい」と過ごしてきました。世間では母親を見れば娘の30年後は分かるというし、家の中を見てこんなだらしない母親の娘とは結婚できないと思うかもしれない。自分のせいで娘の縁談が壊れたらどうしようと不安になりました。夫にこの話をしても、家のことより相手の男性のことが気になるようで、結婚はまだ早いんじゃないかと取り合ってくれません。

料理は得意だし、花を飾りもてなしもできる。しかしごみ屋敷寸前! 目の前が真っ暗になりました。Mさんにとって一番苦手なのが「片付け」です。自分でもそのことを分かっていましたが、現実から目をそむけるためにあれこれ用事をつくって出歩いていたようなものです。またそのことを恥ずかしいと思っていたので、友人にも話していませんでしたが、思い余って片付けの得意な友人S代さんに相談しました。

「なんだ、そんなことで悩んでいたの? 早く言えばいいのに」という返事とともに、片付け大作戦がはじまりました。
「これ使うの?」と問われると、「使わない」、「これ着るの?」「もう着られない」S代さんに聞かれると、確かに使わないもの、着られないものが山ほどありました。これをゴミ袋に入れ、処分しました。どうしてここまでものを溜め込んだのかと思うほどの量でした。こうしてMさんは家を片付け、娘の彼氏を迎えたそうです。

『転ばぬ先の「老前整理」』2016年 東京新聞より

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