『万葉の四季の歌』

(%紫点%) 前期講座(文学・文芸コース)の第5回講義の報告です。
・日時:4月19日(木)午後1時半〜3時半
・場所:すばるホール(3階会議室)(富田林市)
・演題: 『万葉の四季の歌」
・講師: 神野 富一先生(甲南女子大学教授)
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*右は、鎌倉期の写本「西本願寺本万葉集
(普及版・1993年発行・㈱おうふつ)です。
・万葉集は原本はなく書写本が残っている。
・仮名文字のできていない時代に、すべて漢字(音と訓)
をもって表記–[万葉仮名]。
・西本願寺本万葉集は、鎌倉期に写本されているので、
カナが付記され、注記が記載されています。
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(%エンピツ%) 講義の内容
1.日本人の季節観(感)、自然の美に寄せる思い
・日本人は、四季の美を表してきた
・「花鳥風月」「雪月花」「もののあわれ(しみじみとした感情)」⇒和歌や物語に表現されてきた。・・・そのもとをたどると『万葉集』
額田王の春秋の優劣を判ずる歌
・天智天皇が藤原鎌足に「春山の万花の艶(にほひ)」と「秋山の千葉の彩(いろ)」を比べた時に、どちらが趣が深いかと尋ねられた時、額田王が歌で判定した。
☆(巻一・16)「冬ごもり 春さり来れば 鳴かざりし・・・・・・秋山の 木の葉を見ては 黄葉をば 取りてそしのふ 青きをば 置きてそ嘆く そこし恨めし 秋山そ我は
(額田王の春秋の優劣の判定は、秋がすぐれていると判定しています。⇔すでに、万葉の時代に、春秋の優劣をあれこれ取り沙汰するとは、なんと雅な文化でしょうか)
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2.『万葉集』とは
・20巻 約4500首 
・「奈良朝末〜平安初期成立」(七・八世紀の歌を集める)
・第一期(舒明朝〜壬申の乱(672年)):額田王ら
 第二期(壬申の乱〜平城遷都(710年)):柿本人麻呂、高市黒人ら
 第三期(平城遷都〜天平五年(733年)):山上憶良、大伴旅人、山部赤人ら
 第四期(天平五年〜天平宝字三年(759年)):大伴家持ら

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3.季節のものとして何が多く詠まれたか
(1)古代の各歌集での四季の歌 
【春】…万葉集(172)–古今集(134)–新古今集(174)
【夏】…万葉集(105)–古今集(34)—新古今集(110)
【秋】…万葉集(441)–古今集(145)–新古今集(266
【冬】…万葉集(67)—古今集(29)—新古今集(156
・秋と春が好まれている(秋が春よりも多い
・万葉集の秋の歌には、七夕の歌(130首)が含まれている
・新古今集は、他に比べ、冬が多く詠まれている
(2)万葉に詠われた植物・動物・天象/地象
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*右上の資料をご覧下さい。(下の問いの答えは??)
・(1問)植物の一位と二位は、何でしょうか
・(2問)動物の一位と二位は、何でしょうか
・(3問)天象・地象の一位と二位は、何でしょうか
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《答え》
・万葉に歌われた植物…第一位「萩(はぎ)」、第二位「梅(うめ)」
・万葉に歌われた動物…第一位「時鳥(ほととぎす)」、第二位「雁(かり)」
・万葉に歌われた天象・地象…第一位「雪(ゆき)」、第二位「露(つゆ)」

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4.万葉の四季の歌を詠む(抜粋)
【春】
☆(巻二十・4516)「新しき 年の初めの 初春の 今日(けふ)降る雪の いや重(し)け吉事(よごと)」(大伴家持)
☆(巻八・1418)「石走(いはばし)る 垂水(たるみ)の上の さ蕨(わらび) 萌え出づる春に なりにけるかも」(志貴皇子)
(歌意)(水が岩にくだけてはほとばしる滝 そのほとりにワラビが萌え出る春に ああ もうなったのだな)
【夏】
☆(巻八・1500)「夏の野の 繁みに咲ける 姫百合の 知らえぬ恋は 苦しきものそ」(大伴坂上郎女)
(歌意)(夏の野の繁みに咲いている姫百合よ。夏草に紛れて、私の恋もあの人に知られず苦しいものだ)
☆(巻四・496)「み熊野の 浦の浜木綿(はまふう) 百重(ももへ)なす 心は思(も)へど 直(ただ)に逢はぬかも」(柿本人麻呂)
【秋】
☆(巻四・488)「君待つと 我(あ)が恋ひ居(を)れば 我が宿の 簾(すだれ)動かし 秋の風吹く」(額田王)
(歌意)(あの方のおいでを待って、私が恋い慕っておりますと ああ 家の戸口のすだれを動かして 秋の風が吹いています)
☆(巻八・1538)「「萩の花 尾花葛花 なでしこの花 をみなえし また藤袴 朝顔の花」(山上憶良)
【冬】
☆(巻九・1791)「旅人の 宿りせむ野に 霜降らば (あ)が子羽(は)ぐくめ 天(あめ)の鶴群(たづむら)」(遣唐使の母)
(歌意)(遣唐使の一行に加わった者の母が、異郷のわが子を思いやる歌…旅人が宿りをする野に霜が降ったら、どうぞわが子をあたたかな羽で包んでやってくれ。天空を群れ飛んでいる鶴の群れよ)
☆(巻八・1639)「沫雪(あわゆき)の ほどろほどろに 降り敷けば 平城(なら)の京(みやこ)し 思ほゆるかも」(大伴旅人)