短歌の世界 〜「明星」に集う五人の才媛〜

(%紫点%)前期講座(文学・文芸コース)(3月〜7月:全11回講義)の第8回講義の報告です。
・日時:6月7日(木)午後1時半〜3時半
・場所:すばるホール(3階会議室) (富田林市)
・演題:明星派五才媛の永訣の短歌
・講師:宮本 正章先生(元四天王寺大学教授)
—————————————————-
*右の写真は、明治33 年の与謝野晶子(右)と山川登美子です。
—————————————————-
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
(%エンピツ%) 講義の内容
1.与謝野晶子(1878〜1942年) [略歴]
・明治11年(1878)大阪府堺市生れ。老舗和菓子屋「駿河屋」の三女。堺高女卒。旧姓 鳳(ほう)志よう
・明治33年(1900)文芸雑誌『明星』に作品を発表。与謝野鉄幹と出会い、翌年(1901年)上京し、鉄幹と結婚。歌集『みだれ髪』で注目を集める
・山川登美子・増田(茅野)雅子共著の詩歌集『恋衣』(明治38年(1905))
・昭和17年(1942)5月29日没。享年65歳。
◎代表歌(抜粋) 「やわ肌の あつき血汐に ふれも見で さびしからずや 道を説く君」
(歌意)(女性のやわらかな肌を流れる燃えたぎる血汐、その熱い熱情に触れてもみないで、さびしくないか、道を説く君よ)
・道を説く君には諸説あり…鉄幹、友人の河野鉄南、道学者と説がわかれている。
・当時の若い女性が、これだけ大胆に相手の男を挑発する歌
●永訣の歌(抜粋) 「危しと 命を云はず 平らかに 笑みてわれあり 友尋ね来よ」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
2.山川登美子(1879〜1909年) [略歴]
・明治12年(1879)、福井県小浜市生れ。山川家は小浜藩主酒井家に仕えてきた上級武士の家柄。本名とみ。
・大阪の梅花女学院卒。明治33年(1900)、『明星』二号に短歌一首を発表。
・明治34年(1901)、日本女子大学に入学。同時期に増田雅子も入学。合同詩歌集『恋衣』を刊行
・明治42年(1909)没。享年29歳
◎代表歌(抜粋) 「それとなく 紅き花みな 友にゆづり そむきて泣きて 忘れ草つむ」
●永訣の歌(抜粋) 「後世は猶 今生だにも 願はざる わがふところに さくら来てちる」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
3.茅野雅子(1880〜1946年) [略歴]
・明治13年(1880)、大阪市道修町の生れ。生家は薬種問屋。旧姓増田。
・明治33年(1900)、新詩社入社。「明星」八号より短歌を発表。明治37年(1904)、日本女子大学に入学。明治40年(1907)、茅野氏と結婚。大正六年(1917)、歌集『金沙集』を刊行
・昭和21年(1946)没。享年64歳
◎代表歌(抜粋) 「十七や 難波はふるき 中船場 すだれの奥に 琴ひきにけり」 (金沙集)
●永訣の歌(抜粋) 「もののあじ 日にほそりゆく さびしさよ 番茶の香すら なくなりにけり」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
4.玉野花子(1882〜1908年)[略歴]
・明治15年(1882?)大阪生れ。本名 鯰江さつま、雅号白すみれ。
・明星八号から歌や美文を掲載。多くのすぐれた歌を残した才媛だが、歌集は出版されていない。平野萬里と結婚。
・明治40年(1908)没。享年25歳
◎代表歌(抜粋) 「あす君に わかれて一人 死ぬごとき さびしさ覚え 夜もすがら泣く」
●永訣の歌(抜粋) 「人おもひ おもはれてある 享楽も つきしに似たり 死ぬ日近づく」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
5.石上露子(1882〜1959年) [略歴]
・明治15年(1882)、富田林市生れ。南河内の大地主・杉山家の長女。本名杉山孝(タカ、孝子)。
・堂島女学校を経て梅花女学校にも学ぶも中退。
・明治36年(1903)、新詩社に入社。『明星』10月号に短歌三首掲載。
・明治40年(1907)、片山荘平を迎えて結婚。二人の子を生す。
・昭和34年(1959)没。享年78歳
◎代表歌(抜粋) 「玉柱おき 千すじの琴と 高鳴らむ わが黒髪に 指なふれそね」
(歌意)((あなたが近寄ってきたら)美しい琴柱をおき千筋の弦を張った琴のごとく高く鳴りますよ。私の黒髪に指一本触れないでください。)…愛情をもてない男を厳しく拒絶する歌であろう。上の句に美しい比喩をおき、下の句に厳しい内面を歌っている。
・玉柱(たまぢ)−玉(美しいもの)の琴柱(ことぢ)(琴の胴の上に立てて弦を支える具。これを移動させて音の高低を調節する)
●永訣の歌(抜粋) 「人の世の 旅路のはての 夕づく日 あやしきまでも 胸にしむかな」
(歌意)(人生という旅路の果てを迎えつつある今、こうして眺めている夕日のあやしい美しさに惹きつけられて、深く私の心にしみいることである)
———————————————————-
**右上は、宮本正章先生の著書『石上露子百歌」(竹林館 2009年)です。
———————————————————-