『自然の恵みを生かした優れもの』 <和食の良さを見直そう>

(写真は京都市内の日本料理店・東山区下河原町)—–>
2012年6月28日
『自然の恵みを生かした優れもの』
<和食の良さを見直そう>
 
 今年の春、日本政府は「和食=WASHOKU」を次の時代に伝えていこうと、ユネスコ(国連教育科学文化機関)に無形文化遺産の登録を申請した。テーマは、「和食 日本人の伝統的な食文化」。日本政府の申請には、若い世代に和食の良さを知ってもらい、日本の食文化の伝統を受け継いでもらいたいとの狙いがあった。

 さて、日本は四方を海に囲まれ、北海道から沖縄まで南北に長い。しかも、四季の移ろいがある。全国にはいろんな気候風土があり、土地ごとに産物が違うため、郷土に根ざした食文化が生まれた。例えば、家庭食としてのめん食文化。めん料理が多いところは水利が悪くて稲作に不適。かつては、小麦やそばしかできない地域が多かった。

 しかし、小麦やそばを使ったメニューは実に豊富。食材は限られるが、毎日飽きないよう発想豊かに、創意工夫でバラエティーに富んだメニューが生まれた。家庭で作られてきためん料理は、簡単に、早く、おいしく、安くて栄養価が高い。かつては山村で働く人たちの主食であり、食べる人の体と精神を養うものだった。

 四季のある日本では、海や畑からは季節ごとに違った食材が手に入る。しかも、新鮮なものを使うことができたので、その土地ごとに自然の恵みを生かした料理が作られてきた。このように、それぞれの地域で独特の食文化が生まれ、次の世代へと受け継がれてきた。

 ところが今、農山漁村の食生活は都市とあまり変わらず、食文化も均質化してきた。冷凍技術の進歩や流通の発達。大型小売店の進出や外食チェーンの出店。家庭では冷凍食品やレトルト食品が普及し、電子レンジを使うので料理はいたって簡単。そのため、料理の好みも標準化され、和食への関心も薄れてきた。

 そこで、政府が和食を無形文化遺産として申請したのを契機に、自然の恵みを生かした和食の良さを、この際思い起こしてはどうか。そして、無形文化遺産の申請のテーマである、「和食 日本人の伝統的な食文化」から、和食にはどんな良さがあるのかを次に紹介させていただきたい。

(写真は都内の高級料亭・中央区銀座3丁目)—–>

『<ニュースのおさらい> なぜ和食を世界遺産に
2012年6月2日付け朝日新聞より引用

 「和食=WASHOKU」を次の時代に伝えていこうと政府はこの春、ユネスコ(国連教育科学文化機関)へ無形文化遺産にする申し込みをしました。早ければ来年の秋に審査されます。私たちは毎日いろんな料理を食べていますが、和食の優れたところ、日本らしさとは何でしょう。

◆伝統の食文化を残すため
 無形というのは、形のないものという意味だ。ユネスコの世界遺産には、優れた建造物や遺跡などを選ぶもの、貴重で豊かな自然を選ぶものなどがある。無形文化遺産は、人から人へと伝えられてきた祭りや物づくりの技術などの価値を世界で認め、守っていくためのもので、2003年にできた。これまで世界全体で232件登録された。日本からは、京都の祇園祭の山鉾行事や茨城の織物の結城紬など20件がリストに入っている。

 食の分野では、2010年に初めて、「フランスの美食術」、「地中海料理」、「メキシコの伝統料理」の三つが入り、11年に「トルコのケシケキの伝統」が加わった。登録の条件は、その料理がおいしいからとか、古い歴史があるからということではない。

 「その国、その地域の人たちが、自分たちの文化として残したいという気持ちを強く持っていることです」と、国立文化財機構東京文化財研究所・無形文化遺産部長の宮田繁幸さんは説明する。「反対に、専門家がいくら価値があると言っても、人々が『いらない』と思うなら、リストに入れる意味はありません」。

 日本は、「和食 日本人の伝統的な食文化」というテーマで申し込みをした。みそ汁や寿司など、料理ごとに和食かどうかを決めるのではない。北海道から沖縄まで全国に暮らす私たちには、自分たちの地域で長い時間をかけて育てた食事があることが文化で、その全体を和食と呼ぶ考え方だ。

◆自然の恵み生かし新鮮
 では、和食にはどんな特徴があるのか。専門家による話し合いでは、日本人の「自然を尊重する」という精神が和食を形づくったとして、大きく四つに整理された。

 まず食材の豊かさと、その持ち味を生かす調理技術や道具があること。日本は海に囲まれ、北海道から沖縄まで南北に長い。季節が春夏秋冬と移り変わるなか、海や畑から様々な食材が手に入り、新鮮なものを料理に使っている。例えば、生の魚をよく切れる包丁でさばく「さしみ」は、料理する人だけでなく、魚の鮮度が落ちないように運ぶ流通や、魚を傷めないように釣る漁業の技術があって完成されたものだ。

 次に栄養のバランスがいいこと。主食のごはんに汁ものを添え、おかずには魚や肉、豆腐や野菜を組み合わせた食事スタイルは、日本人が長生きで、太り過ぎを防いできた理由だとして、海外からも注目されている。だしや調味料の旨みを利用することも、脂肪分の少ない食生活につながった。

 味だけではない。食事の場面で、自然の美しさを表現することも和食の特徴だ。春に花びらの形をした食器を使ってサクラを連想させたり、夏なら盛りつけに緑のササの葉や氷を使って涼しさを演出したり。食事をする空間にも気を配る。

 四つ目が年中行事との関わり。正月や田植え、秋の収穫祭といった行事に食事はつきもので、ふるさとの料理が出される。いっしょに食べることで、家族や地域の人どうしがきずなを強めてきた。

 和食が無形文化遺産のリストにのるかどうかの審査が行われるのは、早ければ来年の秋だ。登録されれば、地域のよさを見直したり、海外に日本の食材をもっと売ったりするきっかけになると期待されている。それは、国内で、特に若い人の和食への関心が薄れていて、このままでは和食が消えてしまうという心配の裏返しだ。和食を受け継ぐ気持ちをどう育てるかが問題だ。(長沢美津子)

<食>で登録されている無形文化遺産とその内容
●フランスの美食術
結婚や誕生日など、人生の大切なときを美味しい食事とともに祝うという習わし
●地中海料理(スペイン、ギリシャ、イタリア、モロッコの4ヵ国)
魚や野菜などをバランスよく食べ、油はオリーブオイルを中心に使う健康的な食事
●メキシコの伝統料理
儀式や祝祭のときに、豆やトウモロコシを使った伝統的なメキシコ料理をたべる習わし
●トルコのケシケキの伝統
結婚や雨乞いなどの儀式で、ケシケキ(麦かゆ)を食べる習わし(了)