世界最高の食が集結する日本でも一汁三菜こそが土台

「一汁三菜」こそ日本の食文化 世界無形文化遺産へ登録申請中
NEWSポストセブン11月4日(日)16時0分

世界最高の食が集結する日本でも一汁三菜こそが土台

 ユネスコの「世界無形文化遺産」に料理が認められるという。

すでにフランス、メキシコ料理が無形文化財に指定された。「日本の食文化」もすでに申請している。

その意外な、しかし日本人の誰もが頷く内容とは。食文化に詳しい編集・ライターの松浦達也氏が解説する。

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 先日、放送がスタートした「アイアンシェフ」。19931999年まで放送されていた人気番組「料理の鉄人」の復刻版である。

この番組の再始動に火をつけたのは「日本食文化の世界遺産化プロジェクト」だという。

日本政府は今年の3月、ユネスコに「日本の食文化」の世界無形文化遺産への登録を申請(提案)した。

 実は料理の世界無形文化遺産登録は、近年のトレンドでもある。

今回の日本の提案に一番近いのは、2010年に世界無形文化遺産登録が認められた、「フランスの美食術」。

「集団や個人の人生にとって、もっとも大切な時を祝うための社会的慣習」として、無形文化遺産としての条件を満たすと判断された。

 世界無形文化遺産に登録されるのには、いくつかの条件があるが、「社会的慣習」「自国のアイデンティティ」として認知されているかどうかは重要な要件である。 

実はフランスのほかにも「地中海料理」「メキシコ料理」が無形文化遺産として認められ、トルコの伝統料理も登録されていて、フランス以外の3つの料理はさらに絞りこまれている。

 例えば「地中海料理」と聞くと、日本では地中海の海産物などを使ったブイヤベースが想像されるが、無形文化遺産に登録されたのは、スペイン、イタリア、ギリシャ、モロッコの4か国でオリーブオイルを中心とした食文化を指すものだという。

「メキシコ料理」も7000年前から代々口伝された伝統が反映された料理で、とうもろこし、マメ、唐辛子の3つを基本とし、環境との共生、地域社会のつながり、自国のアイデンティティにおいて大きな意味を持つものとされる。

「トルコ料理」はさらに絞りこまれていて「ケシケキ」と呼ばれる祭礼の際に供される料理で、食文化のみならず、祭礼としての伝統的な慣習の評価もあるという。

 今回の「日本の食文化」の定義は、これらのとは少し異なっている。

例えば「地中海料理」の提案手法を当てはめると、アジアにおける「日本海料理」(という食文化圏はないが)という名前で、日中韓台が「ゴマ油料理文化」を提案するという感じだろうか。

「メキシコ料理」と照らし合わせるなら、紀元前4000年頃から現在までの6000年間、日本人に愛されてきたマダイ、クロダイなどの「鯛食」に相当するとういところか。

トルコの「ケシケキ」のような祭礼の際に供されるとなると、日本では田植えが終わって一息つく宴の「さなぶり」が相当するとも思える。

 今年申請された「日本の食文化」は「広範囲」と評されるフランスの「美食術」よりもはるかに広範囲に渡っている。

懐石料理のような高級な和食ではなく、「ごはん、みそ汁、おかず」、つまり「一汁三菜(汁物1品とおかず3品(主菜1品+副菜2品))」に象徴される、日常の日本食が「日本の食文化」として申請されたからだ。

 日本はミシュランガイドに格付けされた店が世界一多い国であり、首都・東京は世界一星の数が多い都市でもある。

世界最高の食が集結する日本に暮らす国民にとって、「食文化」が指す範囲はあまりにも広い。

だがその土台にある「ごはん、みそ汁、おかず」は、まぎれもなく日本の食文化である。 

海外からの帰国時に、きちんと出汁をとったみそ汁を一口すすり、炊きたてごはんをほおばったときの、胃袋だけでなく心にまでしみ入るような至福感。

あれこそが、まさに「日本の食文化」なのだ。

「日本の食文化」についての世界無形文化遺産登録の審議は、2013年の秋以降が予定されている。

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