ホントが知りたい 食の安全本当に怖いのは?
食品リスクの「大きさ」の考え方
■空気にも水にも発がん性
この食中毒のリスクは、放射性物質で健康被害と比較すると30万倍くらい、BSEの5万倍くらい、といった感じです。
よく昔から、どこどこの商品を食べたらガンになる、あの食品を食べたらガンになる、というような情報がちまたにあふれていますが、これはまず「ウソ」です。
多くの場合、発がん性のある物質が検出された、といったところから話が生まれます。でも、実際には空気も水も野菜も、私たちが口にするものの全てに発がん性があります。
つまり、外を歩くだけでも発がん性があるのです。もしある食品からの発がん性を気にするなら、水を飲むことも息をすることも、外を歩くこともできなくなります。
人が生きる上で不可欠な酸素も遺伝子を傷つけますし、紫外線も遺伝子を傷つけます。野菜にはシュウ酸がありますし、水にもヒ素や微量の金属類もあります。
■ソルビン酸は危険?
大切なのは、これまでにも触れましたが「量」です。
たとえばウインナーに使う保存料のソルビン酸は、食中毒のリスクを下げるために極めて有効に作用して、リスクの削減に大きな効果を発揮します。
一方で、ソルビン酸には発がん性があるので危険という人がいて、それを聞くと、本当はどうなのだろうと思われるかもしれません。
具体的には、1食につき60kgくらいそのウインナーを食べると健康被害を受けるレベルにはなります。
でも、こんなに食べるのは現実的にありえません。だから健康被害を受けることはない、ということになります。
■ぶっちぎりの健康リスクはタバコ
ぶっちぎりの健康リスク1位は、食べ物ではないですが、タバコです。
寿命が大体6年くらい縮みます。2005年当時でBSEの460万倍、現在BSEのリスクがさらに下がったので、10億倍くらいでしょう。
そのずっと下に、食中毒があって、それからモチや食べ物をのどに詰める窒息が続いていきます。
ちなみに、流通されている食品で放射性物質関連とBSEのリスクは、何万とノミネートされている食のリスクランキングの最下位あたりです。
つまり、食品リスクの全体を小さくするためには、比較的リスクの大きい食中毒をできるだけ避けることが有効なのです。
これには衛生管理が何よりも大切。次回は「自分でできる衛生管理」について、お話ししようと思います。
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有路昌彦
近畿大学農学部准教授。京都大学農学部卒業。同大学院農学研究科博士課程修了(京都大学博士:生物資源経済学)。UFJ総合研究所、民間企業役員などを経て現職。(株)自然産業研究所取締役を兼務。水産業などの食品産業が、グローバル化の中で持続可能になる方法を、経済学と経営学の手法を用いて研究。経営再生や事業化支援を実践している。著書論文多数。近著に『無添加はかえって危ない』(日経BP社)、『水産業者のための会計・経営技術』(緑書房)など。