地域防犯マップについて考える

先日参加したワークショップは防犯環境設計の手法で行われていました。
個人的には過去記事にも何度か書いているように
人に注目する不審者アプローチ
ICタグなど機器のみに依存する技術アプローチよりは
CAPのような子どもの人権アプローチ、
そして、こちらの場所に注目する防犯環境設計アプローチ、
の方が優れていると思っていましたが、やはり優れていました。

しかし、少し違和感を感じてしまったことも確かです。
驚いたことに、それは不審者アプローチが抱える問題とほとんど
同じなんです。

1.顔見知りの児童虐待には無力では?
まず不審者アプローチ同様、顔見知りの児童虐待には無力。
逆に心理的に入りやすく、見えにくい状況づくりに加担しているかも。
でも、このワークショップはそこまで求めるのは酷。
主催する側がこのワークショップの限界を知っておくことでしょう。
やはりCAP等も含めてプログラムの一環として実施すべきでしょう。

2.ゲーテッド・コミュニティを目指すのか?
一緒に歩いて感じたことなんですが、
「入りやすい/見えにくい」場所に注目すると言うことは極めて主観的であり、
どこでもが危険場所として解釈できる可能性を持っています。
それに作成した地図も非公開だし、最後の発表会も感想のみであり、
ここから皆で話し合って(あくまでも暫定版にならざるを得ないのだけど)
地域安全マップを完成する訳ではないようです。
最もこの方法では、地図を作っても危険場所ばかりになる可能性があるので、
作らないのではなく、実は作られないし、公開できない
のです。
そもそもこのワークショップの目的が、子どもに防犯環境設計の考え方のみを
理解させるためであり、理解促進のためのマップづくりなんですね。
従って、実用的なマップづくりが目的ではありません。
これも限られたワークショップの時間では仕方がないでしょう。
しかし、このことを参加者が十分に理解せず、そして防犯に熱心な地域では
ゲーテッド・コミュニティの建設に向かうのではないかと危惧しました。

3.主観的な危険場所にいる人は不審者なのか?
ワークショップの最後に幾つかのエクスキューズがありました。
これからはこの子どもの調査を受けた大人たちの責任だと。
また不審者アプローチの問題も殊更に強調していました。
しかし、そのための必要となる十分な知識が大人に与えられておらず、
このワークショップを受けただけでは不十分どころか寧ろ危険です。
人には直接注目はしないのだけど、拡大解釈された危険地域に
居る人は不審者ですと言っているとも言え、実は本質的に
不審者アプローチと変わっていない
のです。
しかし、このワークショップはそこまで求めるのは酷。
主催する側がこのワークショップの限界を知っておくことでしょう。

4.被害者への配慮がない
ふたつの被害者への配慮がないですね。
ひとつは過去の被害者への配慮。
街歩きをしている際に過去の被害の記憶が
フラッシュバックする可能性がありますので、
スタッフにカウンセリングの知識がある人を入れておく必要があります。
知識の無い大人が対応すると二次被害の恐れもありますので、
もしフラッシュバックをした人が出れば、
早急に専門家に任せることです。

もうひとつは未来の被害者への配慮。
人ではなく場所に注目して被害に遭わないように
と言うことを余りにも強調しすぎると被害にあった子ども達が
「犯罪に遭ったのは自分が悪かったんだ!」と自分自身を責め、
自尊心を失ってしまう可能性があります。

当然、被害に遭わないようにすることが一番大切ですが、
不幸にも被害に遭ってしまった子ども達が自尊心を
失わないようにすることも大切
です。
特に性暴力に遭った人のケアは重要です。

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全体的な印象としてはこれだけでは不十分ではないかと思います。
念のために言っておきますが、そもそもこのワークショップは
あくまでも防犯環境設計の考え方を理解するためのプログラムなので、
私が不十分だと言っているのはワークショップのことではありません。
防犯環境設計の考え方は有効ですし、その知識を取得するために
このワークショップを行うのはとても有意義
だと思います。
これに加えて、具体的なアクション、それも排他的・権威的なアプローチではない、
そして危険場所を見つけるだけではない楽しいポジティヴなアクションに
結び付けられるような仕掛けが必要だと思いました。

すなわちもっとポジティブに
「子どもの権利を十分に発揮させることのできるまちづくり」
のようなテーマにして、その中に
「子どもが予測可能な事件や事故に巻き込まれることなく天寿を全うできる権利」、
「春の暖かい日に陽光を身体全体に浴びて戸外で自由に遊ぶ権利」、
などもあり、この権利の実現が防犯的にもOK
なんだというイメージなんですが・・・
そのためには子どもの権利アプローチを採用しているCAPも
あくまでもメニューのひとつとして入れ込んでいくことも必要でしょうね。

いずれにしても主催者が明確な目的を持って、
包括的な子どもに安全なまちづくりプログラムの一環として
このワークショップやCAPなどを実施していくこと
が大切ですね。
ある特定のワークショップに地域の活動の全てが埋め込まれていくのではなく、
全体的な街づくりの中にうまく様々なワークショップを組み込んでいくこと
が必要でしょう。

最後に主催者の代表の方が挨拶されたのですが、実は
「地域安全マップづくり」を「まちづくり」と言い間違えておられました。
しかし、私はこの言い間違いに寧ろ明日への可能性を見ました。
そうなんです。
もっと包括的なより良い街をつくるための教養として防犯環境設計を理解し、
それだけに拘泥されないことが大切
なんです。

【関連する過去記事】
みんなでつくろう、地域安全マップ@埼玉県宮代町