昨年度、墨田区の地域応援サイトを作成する中で集めた情報の中に、とても惹かれるカフェがあった。古い木造アパートを利用した、カフェとカレーとアートのある空間
「SPICE cafe」(墨田区文花1-6-10、http://www.spicecafe.info/)。

地図を片手に、押上駅(半蔵門線、浅草線)から歩くこと約10分。外壁が緑の草に覆われた、アパートが出現。ドアを開けると、カレーのスパイスの香りと木造アパートが持っている独特の雰囲気が私の五感を刺激。少し早めに着いたので、椅子に座り窓から紫陽花を眺めていると取材に来たことも忘れ、いつの間にかまったりモードに。

「SPICE cafe」は、2003年11月にオープン。店主の伊藤さんは、会社を辞めた後、
旅に出て、3年半で48カ国を回る。事業を起こしたいという気持ちはあったもののその時はまだ料理屋を開くことは考えていなかった。ただ、食べることが好きで「料理」をテーマに回った。その後、東京のイタリア料理屋やインド料理で4年働いた後、独立の準備に。

伊藤さんは、墨田区出身。開店のための店舗探しを行っていたところ、友人に「ここをお店にしたら?」と言われたのがきっかけになって、20年以上使われていなかった、築48年の木造アパートをカフェにすることに。電気・ガス・水道などの設備工事以外はすべて手作り。友人や近所の職人が手伝ってくれ、約7ヶ月かけて、作った。
(オープンに至るまで〜現在の日記が、HPの「Diary」上から読むことができます)

駅から離れていて立地条件はいいとはいえない。だからこそ、『わざわざ来たい』と思える、「カフェ+価値(スパイス)」が必要。遠くから来てくれるのだから、滞在時間を長くしたいと考えた。『ゆっくり食べられるカレー』がSPICE cafeのコンセプト。
木造アパートの魅力を最大限にいかし、自然素材を多く使い、夜にはカレーのコース料理を出している。ここを訪れた人は、ランチでは約1時間、夜は約3時間滞在するという。ファーストフード店は、お客の回転を速くすることを目指すが、ここはその逆である。
また、カフェの隣には展示スペースがあり無料で貸し出しを行っている。訪問時
は、「小物展」が行われ、近所の保育士さんが自分の作品を展示していた。展示スペースの利用は、1年先まで予約が入っている。
今後の展望を尋ねると、「地域貢献」と伊藤さんは言う。活気が失われつつある商店街と、墨田区に移り住みたいと考える人をマッチングさせ、地元の人と新しい人が一緒になって、まちづくりをしていきたい。
新しいマンションの建設が進む墨田区は、住民がいない古い木造アパートなどが潰されている。使われていない空き部屋を再生し、そこに人が住むことで、町並みが崩れるのを防ぐことができるという。

地域応援サイト作成を“縁”に、墨田区を訪れたり、墨田区の人と話をすることが多くなったが、地元をこよなく愛している人が多いように思える。それは、なぜか?
伊藤さんは「(墨田区に)オリジナリティ」があるからだという。墨田区で形成された文化に価値を感じ、その魅力にとりつかれ、移り住みたいと考える人は多い。今後も、この町を愛する人は増えていくだろう。(取材・まとめ 小星/2007.06.26訪問)

(会報「万里夢」2007.07.01より)