昨年の10月17日から19日までの三日間、
南アフリカのダーバンで6回目となる
CHI(チャイルド・ヘルプライン・インターナショナル)の世界大会が開催されました。
ダーバンはインド洋に面する南アフリカ西部の港町で、
ヨハネスブルグ、ケープタウンに次ぐ国内第3の都市です。
この都市の北端に位置するゲートウェイ・シティーという複合施設で、
CHIとチャイルドライン南アフリカがホストを務め、世界から150名余りの関係者が集い、
「子どもを守るためのシステム作り」をメインテーマとして、
さまざまな議論や情報交換が行われました。
最終日には、今回の会議の目玉となる「ダーバン決議」を採択し、
世界のチャイルド・ヘルプラインやユース・ヘルプラインにとっての活動指針としました。
また、同時並行で地元の10代から20代の若者たちによるユース会議も開催され、
「子どもを守るためのシステム作り」について、子どもたちにより近い立場から、活発に意見を交換しました。
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さて、三日間の会議の内容を簡潔に振り返ってみたいと思います。
まず初日のオープニングセッションでは、
CHIのエグゼクティブ・ディレクターであるネニータ・ラ・ローゼさん、
ダーバン市の副市長ウマン・シャバララさん、
ユース代表のセルラティ・ドウンサ君とウルリカ・シャドウさん、
チャイルドライン南アフリカの副代表CD・ジャフタ神父による
プレゼンテーションとディスカッションが行われました。
5人のスピーカーは、それぞれ異なる立場に立ちながらも、
子どもや若者の思いを真摯に聴き、それらを集約して活動の方針や
意志決定に有効に活かしていくことの重要性を強調していました。
また、各国における「子ども守るためのシステム」の強化と、
そのシステムの中で、チャイルド・ヘルプラインが
最前線で積極的な役割を果たすべきだと指摘していました。
このオープニングセッションでは、実際に男女二人の若者が登壇し発言をしたことにより、
子どもを守るためのより良いシステムをつくっていくためには、
子どもや若者の参加が不可欠であることを強く印象づけたように思います。
続く全体会の中では、
CHIの創設者であり代表理事でもあるジェルー・ビルモリアさんが発題者として、
CHIが創立10周年を迎えるにあたって、国レベル、世界レベルでの
より強固な「子どもを守るためのシステム作り」が必要であることを出席者に訴え、
この発題を基にビルモリアさんを含めて4名のパネリストによるディスカッションが行われました。
ディスカッションの中では、現代社会におけるチャイルド・ヘルプラインの重要性、
特に過去10年間に世界各国で受けてきた1億4千万件のデータが、
子どもを守るためのシステム作りの中で、とても重要であることが指摘されました。
その後の分科会では、
「子どもを守るシステムが充分に機能していない国における強化」
「システムが機能している国における更なる向上」
「他機関へ繋ぐ際のメカニズムとケースマネージメント」
「他機関とのネットワーク作り」という4つのテーマを巡って、
参加者がそれぞれに意見を交換しました。
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2日目の午前中には、アフリカ、アメリカ、アジア太平洋、ヨーロッパ、
中東北アフリカという世界5地域に分かれ、地域会議がもたれました。
アジア太平洋地域会議では、二つの点でCHIに対する要請が議論されました。
CHIがテレビなどのメディア対策、特にメディアを有効活用することに、
より力を注ぐべきだということ。
また、新たに立ち上がってくる
各国のチャイルド・ヘルプラインの支援をCHIが直接行ってほしいとの要請が、
会議の総意として集約されました。
そして、2012年から2014年までの第5代目となる地域代表として、
タイのイリア・スミルノフさんを選出し、副代表としてニュージーランドのアンバー・デーヴィスさん、
基準と質の向上委員としてスリランカのガンガー・イッダマルゴダさんをそれぞれ選出しました。
会議の中では、CHIの担当者から、インドネシアのジャカルタに
CHIのアジア太平洋地域支部を置き、
各国のコーディネートおよび新規立ち上げに関する協力を行うことが報告されました。
また、インドネシアをハブ地域に選んだ理由として、
ビザの発給基準が緩やかであることが併せて説明されました。
午後には、サイト・ヴィジットとして、
ダーバン市のチャイルド・ヘルプラインの現場を訪問しました。
瀟洒な住宅が建ち並ぶ住宅街の一角にヘルプラインのオフィスはありました。
一軒家を改造して、事務所とコールセンターが併設されています。
有給のスタッフ3名が受け手(カウンセラー)としてコールセンターには常駐しています。
受け手の人たちは、英語とズールー語を巧みに操りながら、
子どもたちからの電話に丁寧に対応をしていました。
区分けされたブースの中で、ハンズフリーセットを使い、
声を聴きながらその内容を直接コンピュータに打ち込んでいきます。
その姿勢はアクティブリスニングが基本ですが、
虐待など緊急のケースに対しては、行政機関などとも連携して的確に対処しています。
システム化されたその運営のあり方は、
日本のチャイルドラインにとっても大きな参考になるものです。
ダーバン市のチャイルド・ヘルプラインでは、アウトリーチプログラムも行っています。
特に少数民族の村などへ出向いて、
子どもの権利についての教育や性教育なども行っています。
事務所の一角のミーティングスペースで、
人形劇仕立てにした子どもの権利の啓発プログラムを見せてもらうことが出来ました。
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三日目の午前中には、さまざまなトピックに基づくオープンスペースが設けられました。
その内容は、
「グーグルなどのソーシャルメディアの利用法」
「子どもたちの商業的性的な搾取」
「政府によるヘルプライン支援のあり方」
「いじめに関する学校へのアウトリーチプログラムの評価」といった多岐にわたるものでした。
参加者たちは、それぞれが興味を抱くオープンスペースに自由に出入りをしながら、
情報の収集と意見交換を行っていました。
また、午後にはチャイルド・ヘルプラインに特化した三つのテーマ、
すなわち「子どもに対する性的虐待の防止に関するヘルプラインの役割」
「ヘルプラインのブランド・マネージメント」
「社会の目の行き届かない子どもや若者たちの支援」をテーマとして、分科会が開かれました。
それぞれの分科会での議論をここでご報告することが出来ませんが、
その内容は今後のチャイルド・ヘルプラインのあり方について具体的な方向性を示すものであり、
その一つひとつを日本のチャイルドラインの運営にも活かしていくことが望まれています。
三日目のクロージングセッションでは、参加者全員が一同に会して、
各国での活動の指針とすべき「ダーバン決議」を満場一致で採択しました。
このダーバン決議は、すでに世界子どもの日に併せて、
各国でメディアや行政に対してリリースされています。
日本でも支援センターを通じて各チャイルドラインやメディアなどに配信をしました。
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今回の世界大会は、ヨーロッパ以外では初めての開催となるものでした。
南アフリカの方々が、開催にあたって寝る間を惜しんで
その準備と運営にあたってくれたことに感謝せずにはいられません。
その苦労に報いるためにも、私たち日本のチャイルドラインは、
子どもたちの声を聴き心に寄り添いながら
子ども優先の社会創りに力を尽くしていかねばならないでしょう。
そのためには、常に「子ども」を主語としながら、
大人が対話を重ねていくことが必要です。
そして、なによりも子ども参加を促進することが、
日本のチャイルドラインに求められているように感じられます。
日本でチャイルドラインがスタートしてから15年が過ぎます。
今後20年という節目を迎えるにあたって、今一度チャイルドラインの基本を確認しつつ、
子どもたちの時代のニーズに対応できるよう進化を遂げていきたいものです。
(報告者 代表理事 神 仁)