外国人労働者の労働保険 失業手当を受け取れない人も /滋賀
◇ほとんどが制度未加入 義務付け無視、企業の食い物に
日系ブラジル人など南米の外国人労働者が集中する県東部で、外国人労働者から相談を受けた個人加盟の労働組合が、相談者らが所属していた外国人中心の県内の派遣会社27社の雇用条件を調べたところ、わずか1社しか労働者を労働保険(労災保険と雇用保険)に加入させていなかったことが分かった。労使双方で負担する労働保険は加入が法的に義務付けられているが、労組が各社に是正を申し入れたところ、いずれも「労働者が希望しなかった」などと弁明したという。徐々に景気回復の兆しも見え始めたが、いまだに失業手当すら受けとれない外国人もいる。【稲生陽】
労組は非正規労働者のための「アルバイト・派遣・パート関西労働組合」(本部・大阪市)。不況が深刻化した昨年秋以降に県内の外国人労働者約130人から労働に関する相談を受け、相談者の雇用契約書を精査したり勤務先に問い合わせたりして雇用条件を調べたところ、県外に本社のある1社を除く全社が労働者を保険に加入させていなかった。「給料から保険料を天引きすると、外国人が集まらなくなる」として、日本人従業員のみ保険に加入させるケースも多かった。交渉すると、大半は雇用開始にさかのぼっての保険加入に応じたが、「保険料に回す資金がない」「健康保険や年金と一緒でないと入れず、労働者の負担も高額になる」などとして応じない社も数社あった。
91年に来日した日系ブラジル人男性(45)は昨年9月、派遣先の同県近江八幡市内の工場で、倒れてきた約200キロのコンクリート金型の下敷きになった。大けがをしたが、翌日、長浜市内の派遣会社から「もう会社にはいらない」と告げられ解雇された。今も胸や背中に痛みが残るが、労災保険未加入のため、病院は会社負担で一度受診したのみだ。失業保険はさかのぼって適用することが可能だったが、手続きが遅れたため受け取れず、現在は生活保護を申請中だ。「私にも日本人の血が流れているのに、日本は冷たい」と唇をかんだ。
労働基準法は労災事故での療養中の解雇を禁じているが、同社の担当者は取材に対し、「解雇は男性の無断欠勤など別の理由からで、休業補償と解雇予告手当を兼ね40万円を支払った」と説明。「外国人を専門に雇う派遣会社はどこも労働者を保険に加入させていない。違法と分かっていても、好況時なら、保険料を天引きすると労働者から不満が出る」と理解を求めた。
同労組は「制度すら知らなかった外国人がほとんど。分からないのをいいことに企業の食い物にされてきた」と指摘する。「再び好景気になれば、また保険なしの雇用が息を吹き返す。同じことを繰り返してはいけない」と話している。