多文化のスタッフに聞く 〜岡 美織さん〜 <後編>

先月と今月は、『多文化(多文化共生センター東京)』の事務局で働いている
岡 美織(みおり)さんにお話を伺いました。(聞き手は杉田です。)

——『多文化』をどこで知ったんですか?

「3年間のアメリカ留学を終え日本に帰国した後、移民の多い地域
(豊橋、豊田、神戸など)を1ヶ月放浪していました。
日系ブラジル人やベトナム難民、在日コリアンが多く住む地域にある
小中高校やNPO、市役所への訪問を繰り返し、その中で『田村太郎さん』
という方の名前をちょくちょく聞くようになりました。
ちょうどその時名古屋の国際交流センターで田村さんが可児市でセミナーを
ひらくというチラシを見つけたのです。
早速足を運びセミナー後に田村さんを捕まえ、
『学齢(※義務教育の対象年齢=15歳まで)超過児の支援に興味があります。』
と話したところ、『ぜひ、君がそういう子どもを支援する団体を作って下さい』
と言われました。
さすがに今の段階で自分で作るのはちょっと難しいと思い、
『現在活動している団体を教えてくれませんか』と聞いたところ、
『多文化(多文化共生センター東京)』の名前を教えてもらいました。
家に帰り即インターネットで調べ『多文化』に連絡、2009年10月半ばに
『多文化』に見学に来ました。お昼の授業を見学後、代表の王さんにお話を
伺ったのですが、『こういう子どもたちと関わる仕事をしたいけど
なかなかないですよね、、、』ともらしたところ、
『事務局スタッフの1人が産休に入るので、応募しますか?』
と言われたのです。あまりの幸運に目が点になりました。
『応募します!』と答え、早速履歴書を用意しました。
そして面接を受け、採用していただいたのです。」

——『多文化』で初めて気がついたことはありますか?

「日本の公立教育がここまで外国人に対して不親切とは思っていなかった
ですね。
日本は先進国だし、『教育立国』のイメージが強かったのですが、国民以外の
子どもに対する義務教育さえ確保されていないですからね。
アメリカでは21歳までは国籍に関わらず、すべての子どもに無条件、無償の
公教育の機会が保障されています。
また、学校では、親の在留資格を理由に子どもの受入を拒否することは
禁止されています。
今の日本社会では、『学校に行きたい』という子どもたちのポジティブな
気持ちさえ叶えられないんですよね。
日本において『日本国籍ではない』、『日本語が話せない』ということが
どういうことなのか、実感として分かったような気がします。」

——『多文化』で働いてみて、どうですか?

「このようなNPOでボランティアをする機会はたくさんありますが、
有給で雇ってもらう機会はなかなかないので、こうしてスタッフとして
働けることをありがたく思います。
『多文化』での仕事は一言で言うと、『おもしろい』です。
『多文化』の生徒や先生、スタッフやボランティアなど組織を作り上げている
一人一人がそれぞれの考え方や信念を持っているので、一緒に活動していて
とても勉強になりますし、おもしろいです。
また、私も『なんちゃって先生』として子どもたちと直に接する機会が
多いことがうれしいです。
日々子どもたちが周りにいると、自分の仕事の意義が常にはっきり見える
というか、『この子たちのためにがんばらねば』と思えるんです。
そして、自分の仕事に対して責任を持たなければと気が引き締まります。
仕事が多くても自分のやる気の源(モチベーション)が真横にいると
ほんとがんばれますよ。やはり子どもはかわいいですからね。」

——『多文化』の仕事は多いですか?

「やることはたくさんあります!
『多文化』はフリースクールに限らずいろんなことをやっていますから。
現在は平日のフリースクールを中心とした仕事をしていますが、土曜日の
子どもプロジェクトに親子日本語教室もあります。
また、そういった直接子どもに関わる仕事以外にも、色々とやらなければ
いけないことがあります。」

——今後はどうやって仕事をしていきたいですか?

「私は、恥ずかしいことにこの分野について基礎知識が十分でなく、
やる気と興味で採用してもらったようなものなので、まずはしっかり
勉強しなければと思っています。
そして『多文化』の限られた人数と資源を活用するにあたって、
『問題の本質は何なのか』、『どこを「つけば」どこが「でる」のか』、
多文化ワールドの力学を見極めなければと思います。
現在の『多文化』の活動は、言ってみれば日本社会が抱える問題への
『応急処置』だと思っています。
日本語が話せなかったり、学齢超過であるため学校に行けない子どもに
日本語や教科を教えることはもちろん大事ですが、そもそもの法整備や
教育システムレベルでの対応がされないと根本的な問題は解決しません。
現場だけでなく、枠組みが変わらないとダメなんです。
今後のあり方を考える上で『5、10年後にどのような社会を作りたいか』、
ビジョンを描くのはとても大事なことだと思います。
『多文化』でスタッフとして働くということは、子どもと直に接する
機会もあり、『それ以上のこと』を考える機会もあるということですね。
ミクロ、マクロ両方の視点を養うことができるのでおもしろいです。
『多文化』に限らず、日本のNPOでは人が足りないからいろんなことを
やらされるし、逆にやらせてもらえます。
もともと私は『頭で考えるよりまず行動』タイプなので、なんでも挑戦して
みようと思っています。
そうやって、日本の『多文化共生』が成長する過程に関わっていけたら
いいなと思います。」