『ブンミおじさんの森』には、近代が失ってしまった闇があり、見えざるものがあり、穏やかな死がある。だからこそ光は美しく、世界は驚きに満ち、生は目映い。『ブンミおじさんの森』は、かつてそうであったものを、未来に伝える幸福な映画なのである。
戦争やテロ、暴力といった世界の現実を題材にした作品が多かった2010年のカンヌ。その中で『ブンミおじさんの森』の美しく、そして斬新なイマジネーション、思わず笑みがこぼれるようなユーモア、そして何より生と死に対する優しく深い洞察が、この収縮した世界を甦らせる。パルムドール受賞によって、それは確信となった。
【あらすじ】
腎臓の病に冒され、死を間近にしたブンミは、妻の妹ジェンをタイ東北部にある自分の農園に呼び寄せる。そこに19年前に亡くなった妻が現れ、数年前に行方不明になった息子も姿を変えて現れる。やがてブンミは愛するものたちとともに森に入っていく……。