「すなしま」17号で紹介した映画シリーズ、次は、小津安二郎からガラッと変った作品を2本。
1本目は、今村昌平監督の「にっぽん昆虫記」(1963年)。
大正末期から昭和を生きた女性の半生で、何ともドロドロとした話です。
高度成長の裏にはこういう人がいて、日本の貧しさと哀れさを背負いながらも、本能的に生きていた……そんなことが感じられる映画です。
で、これを何故、「すなしま」で紹介したかと言うと、昭和30年代の砂町銀座が映っているからです。
主人公の親子が、仲良く砂町銀座を歩くシーンがあります。
その映像がこれ。
テレビの画面をデジカメで撮ったので、わかりにくいかもしれませんが、ものすごい人です。今なんて問題でないです。
これだけ砂町銀座はすごかった。
そして、戦後の成長の裏側を歩いてきた人には、この砂町銀座の雑踏がよく合う。だからこそ、ロケ地として使われたということだと思います。
続いて、もう1本は「飢餓海峡」。
1964年の内田吐夢監督の作品です。
有名な作品なので知っている人も多いかと思いますが、水上勉原作のサスペンスで、主役が三国連太郎。函館で起きた放火殺人事件の犯人が、10年後、舞鶴で新たな殺人事件を起こし、そこから10年前の事件の真相が明らかになっていく話で、ハラハラドキドキさせられます。
主人公の相手をした売春やどの女が東京に出て来て、亀戸の色街で働く設定になっています。当時の亀戸天神と、鷽替え神事の様子が映っています。
これもまた、当時の亀戸の鷽換えの様子を映した貴重な資料といえるでしょう。
で、この2本の共通点といえば、左幸子です。
「にっぽん昆虫記」で砂町銀座を歩くのも、「飢餓海峡」で亀戸天神を歩くのも、左幸子なんです。貧しさ→田舎の娘→娼婦→東京の場末の街という構図に、ぴったりだったということでしょうか……。
それと、もう一つの共通点が、昭和33年4月に施行された「売春禁止法」。
「にっぽん昆虫記」では、この法律を堺に主人公が隠れて商売をするようになりますし、「飢餓海峡」でも、これをきっかけに左幸子は、男を探しに舞鶴に旅立ちます。
この法律はいろんな人の人生を大きく狂わせたと見ることもできるわけです。
そんなことも踏まえて、ぜひご覧ください。