さくらびレポート363〜平成23年度長野上水内教育会・一般研究報告書「カオス・ギャラリー」

櫻ヶ岡中学校の中平です。今年の5月から始めて、いまだ継続中のカオスギャラリー・プロジェクトのレポートを書きました。教育会から助成金を頂いており、その報告書の提出が迫っているためです。

平成23年度 一般研究報告書

■ 研究テーマ

 生徒の作品を見せる展示スペースを設置することを通して日常的な美術制作意欲を高める

〜誰でも自由に作品展示できるアートスペース「カオス・ギャラリー」の実践から〜

1 テーマ設定の理由

 本校美術科では、3年間115時間の必修授業を、鑑賞と制作両面で構
成し、生徒が主体的に表現テーマを決定して自ら試行錯誤していくこと
ができる力を付けるために、「Nスパイラル」という3年間授業カリキ
ュラムを独自に作り、実践している。生徒は概ね、美術の授業が好きで
意欲的に取り組んでいる。しかし、必修授業であるため、どうしても受
動的な表現になり、教師の想定を超えるような本当の意味での独創的な
作品や、自分のこだわりを持って本当にはまりこんで制作する態度を、なかなか見ることができないのが現状である。つまり、技能的にはそんなに高くはないけれども、主張や言いたいことが言葉ではなく作品のイメージやパワーで伝わってくるような「中学生期でしかできない表現の作品」が少なくなり、どこか正解を求めている「良い子の作品」をイメージさせる、枠にはまった表現が多くなっている。

 中学生の表現が、言い方を変えると「おとなしく」なっている原因の一つは、発展的授業を可能にしていた選択教科の廃止などの環境的理由により、様々な材料に触れて、自分で自由にテーマを設定するような体験が授業の中で減ってきているからではないかと考える。そのため、校舎内のあるスペースに、中学生が制作した、いわゆる「カオス」をテーマとした中学生にとって共感できる身近で「リアル」なメッセージを持った作品を展示する環境を作り、2週間交代で作品がチェンジしていく本プロジェクトを立ち上げた。この、中学生が誰でも自由に作品を展示できるアートスペース「カオス・ギャラリー」を設置することにより、多くの生徒が様々な材料を様々な方法で扱う作品を鑑賞し、美術表現について考える時間が授業以外にも広がり、生徒たちの美術作品制作への意欲が高まるのではないかと考え、このテーマを設定した。

2 研究の内容(具体的に行ったこと)

(1)カオス・ギャラリーの概要とねらい

①注目する
・・・・日常の身近な場所に「異空間」を作って生徒に注目させることをねらった。美術室がある500番校舎3階の廊下に、会議用大机の大きさで設置。この場所は、美術の授業へ来た生徒だけでなく、4階にある音楽室へ行く生徒も作品を鑑賞することをねらっている。一日5時間授業が、美術または音楽があった場合、単純計算で毎日200人以上がギャラリーを見る計算となる。重要なことは、展示替えになったことを展示開始初日から多くの生徒が発見でき、作品の情報が口コミで広がり、作品が注目されるということである。

②作る
・・・できるだけ多くの生徒に表現させたいと考え、作品替えのペースを1週間または2週間とした。5月のギャラリーオープン時に作品出品者を募集したところ、応募者が殺到し、24年3月の卒業式前日まで25作品を展示する盛況となった。参加生徒は1,2,3年生でのべ40人以上であり、昨年、選択美術の授業を通年で行った場合の受講生徒とほぼ同じ人数ということとなった。

③見る・気づく
・・・・できるだけ多様な材料を用いて多様な表現をさせ、鑑賞する生徒に素材の多
様性を気づかせたいと考えた。具体的に作品に使用された主な素材は、下記の通りである。

テレビを使った動画、絵画(ペンキ、鉛筆、蛍光塗料、マジックなど)、紙粘土、トレーシングペーパー、アルミホイル、鏡、落ち葉、写真、空き缶、練り消しゴム、木片

必修授業で扱うことができないような素材の扱い方に気づく機会ができたためか、必修授業で応用する生徒が現れたり、全く想像もしなかった素材を扱って表現しようとする生徒が現れている。

④考える
・・・カオスギャラリーニュースを発行し、鑑賞者に作者の意図などを考えさせた。作品展示の際、必ず、教師が作者に制作意図などをインタビューし、新聞として印刷して発行している。作者の制作意図や考えたこと、制作のきっかけなどを鑑賞者へ伝えることができ、視覚的鑑賞だけでは

なく、作品を読み解くことにつながっている。

⑤広がる
・・・平行したイベント企画を教師が時々行い、表現の可能性を広げた。カオスギャラリーの通常展示だけでは、中学生の表現範疇の中にあるため美術の幅は広がりにくい。教師が様々なアートの形を生徒に提示する場を持つことにより、更に表現の面白さが伝わるだろうと考え、ギャラリー横のスペースに、年

数回イベント展示を行った。夏の「水バー」、秋の「FMカオス」、冬の「加尾須温泉ゆびゆ」である。このスペースは、ちょっとした発想で生活自体が少し楽しくなったりおもしろくなったりすることを体験するスペースであり、必修授業の生

徒の表現に影響が今後出てくるものと考えられる。

(2)カオス・ギャラリーの作品例と生徒の様子

(3)生徒への意識調査から見る研究の成果

 作品出品生徒にアンケートを取り、意識調査をした。「カオスギャラリーが存在することにより学校に影響を与えているでしょうか?」という質問に対し、「どこか一時の清涼飲料になっている。いい作品を見るとワクワクする。」「みんながしょっちゅう美術室横へ行くようになった。話題に上ることが多くなった。」美術の幅を広げたり、面白そうだと感じたりする刺激を与えていることがわかる。また、授業以外でも話題になっているということから、美術を日常化することに貢献しているようだ。

4 今後の課題

 一定の成果は見られたが、生徒の制作の様子を観察すると、まだいわゆる美術の表現にまとまっているように感じる。どうすれば中学生の創造性やモチベーションを高められるか。中学生の興味関心に重点を置きつつ、「おもしろい空間」に美術室周辺がなるよう、更に工夫していきたい。