【にんげん研究室】(4) – 「個性症候群」にかかっていませんか?

にんげん研究室の小林です。

「にんげん研究室」と銘打っているからには、中学生たちと一緒に「にんげん」を研究しています。せっかくなので、少しずつその研究内容を公開していきたいと思います。
今回は「個性」についてのお話です。

 美術系周辺に限らず、学校では「個性」という言葉をよく聞きます。「君の個性を大事にすればいいんだよ。」「お前って、個性的だよな。」「自分の個性なんて、見つけられないよ。」……個性の名の下に独創的なアイディアや技術によって注目されることもあれば、一方では個性を探し求めてさまよったり、鎖につながれてしまったり。社会に出た大人でさえ悩むことがあるんですから、今や個性にまつわる問題は若い世代を中心に深刻な「生きにくさ」を生み出してしまっています。ちなみに、ぼくのような変人は「個性的」ということでいろんな面倒事からは見逃してもらっているので、それはそれでとても助かっています。その恩返しというわけでもありませんが、今回は「苦しさの原因」について考えてみたいと思います。

 そもそも、こんなにぼくらを悩ませる「個性」ってなんなのでしょう。定義は人それぞれありあそうなので、わざわざここで定義付けという面倒くさいことはしません。ですが「個性」といわれるものが、どうやって組み立てられてきたのかを知ると、もしかしたらこの牢獄から逃げ出せる道が見えてくるかもしれません。

 ぼくらは生まれたその瞬間から「ものまね」をする生き物です。泣いたり、おっぱいを吸ったりとかは、生き残るために必要な行為なので、きっと遺伝子レベルで組み込まれているデータです。しかし、言葉や仕草、ものごとの考え方、感情の表し方、歩き方などはすべて自分より先に生きている人のものまねをして育っていくしかありません。
 つまり、極端な話が、ぼくらは生まれたときから「他人」の要素をとりいれていくように設計されています。何者でもあって、何者でもない、他人の複合体。それが、ぼくらの「はじまり」です。それらがじっくりと混ざり合ってくると、やがて「私」というものが生まれてきます。じゃがいも、にんじん、たまねぎ、水、スパイス……といろんなものが混ざって「カレー」という新しいものになるのと似ていますね。この私のなかにある「他人」の割合は人によって違うので、誰一人として同じ「私」にはなりません。もしあったとしても、クローンぐらいです。
ここまでは分かるでしょうか?

 この「私」が「個性」の大部分をしめています。(実は「個性」という言葉にはいくつもの意味が混ざり合っているんです!他の意味はまた後ほど。) 実は、ここに苦しみの原因が隠れているのではないかと、にんげん研究室では考えています。
 多くの人は、「私だけの個性」を探そうとします。ですが、そんなのは無理です。頭のいい人はもう分かりますね。だって、他人のかけらが集まったのが、「私」なんですから。「あの人と同じは嫌」「自分だけは特別」……そんな風にして、他人の要素を私から切り捨てていくと、最後にはなにが残るでしょう。残念ながら、なんにも残りません。空っぽになってしまいます。でも、ひどいことにそれでも「自分だけの個性を見つけろ」と意地の悪い大人は言います。
いやぁ、大変ですね。

 だからといって、ぼくは「みんなと同じようにしろ」と言っているわけではありません。「私のなかにある『他人』(と似ている)要素を受け入れましょう」ということをいいたいんです。ちょっと難しいでしょうか。他の人に無理に合わせる必要はありません。自分はこうしたいのに、空気を読んで一緒にいるというのは、かえって苦しくなっちゃいますから。「あの人と違わなければならない」ではなく、「あの人と同じ部分があってもいいんだ」。他人との同じ部分を認めて、細かな違いを積み重ねる。そうやってはじめて、「私」というものが見えてくるんじゃないでしょうか。

 これはちょっと暴論かもしれませんが、10代そこそこで他人と違うところを探せって言う方が難しいことなんです。だいたい同じ教育要綱のなかで育ってきているわけですから、かなり努力して違う時代のことや学校では教えてくれない分野のことを勉強しないと、明らかな違いを出すなんてできっこないんです。しかも、大体の場合、私の個性を発見してくれるのは「他人」です。先生や友達、その他の他人に「お前はこれが得意なんだな」と見つけてもらうことから、「私の個性」は出発することが多いです。
「No.1」とか「only one」もいいですが、たまには「anyone」も大事だと思うんです。

自分と他人との違いを比べて苦しむより、
あの子に他人との違いを教えてあげてみてはいかがでしょうか?

これを読んでくださった、みなさん。
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