右は湯治アーティスト・田中真二朗さんがAIT前に制作したドゥローイング。
バラックのようなものを建て、これにつるを巻きつけて、「棄景」をつくりだしたい。展示場所が御殿湯駅の脇で、この駅は小学生が利用すると聞いているので、子どもたちが秘密基地をつくる感覚で参加してくれたら——そう語っていた田中さん。そして実際、子どもたちはやってきたのです!
会期初日の7月6日時点での作品制作風景。まだバラックはひとつしか建っていません。
これを手伝っているのは馬場温泉さん。ほかの若旦那たちが川に毛糸の橋をかけ、町内会のお年寄りのみなさんが温泉通りに毛糸のしめなわを結んでいる頃、ふたりは黙々と小屋をつくりつづけました。
馬場温泉さんいわく「日当もらわないとわりにあわない」。かなりきつい作業だったようです。
できあがったバラック3つ。手前は町内会の協力を得て採取したくず。この日は会期中唯一の晴れ間も見えて、すっかりなえてしまっています。
そしてこのころから小学生がやってき始めました。
そんな小学生たちに、田中さんは一番左端のバラックをまかせることにしました。写真ははしごをつくる子ども(とおとな)。自分たちでもバラックをつくりたいと言い出す子どもや、もっとかっこいいつるを巻きつけたいと言うこどもなど、かなり人気のスポットになってきました。
私が一番驚いたのは、田中さんはじめ、作家のみなさんや来場者と、隣町の鳴子温泉にあるカフェ「たまごや」さんでくつろいでいたときのことです。いきなり田中さんが外へ飛び出し、歩いていた子どもたちに話しかけていました。それは例のいっしょに秘密基地をつくっている東鳴子の小学生たちで、彼らは電車でこの隣町の鳴子温泉にある小学校へ通っていたのです。田中さんはもう東鳴子の小学生のほとんどと知り合いで、自分の町の子どもたちのように接しています。
しかし出会いあれば別れあり。最終日がやって来ました。
これ、どうするの?という子どもたちの質問に、ひとの土地だからいずれこわさなきゃならないとこたえると、子どもたちはプラカードをもってデモ行進し、こわさないようにはたらきかけるとか、入場料をとってこの土地を買い上げるとかいろいろな案を出してくれたそうです。
結局、来月16日の「GOTEN GOTEN 2006 アート湯治祭」の8月の企画「光の盆」まで作品は展示されることになりました。
ここでもアートは、町の心をひきつけ、子どもたちの心に大きな何かを残しました。そしてまた、そうした子どもたちをながめていた大人たちの心にも。
(コメント:門脇篤)