東鳴子湯治村塾アート部会

中小企業整備基盤機構による「コーディネート事業」を活用した「東鳴子湯治村塾」。7回目の今日はこれまでの東鳴子の「アート湯治祭」を振り返り、今後を模索する日です。
そうそうたる講師をお迎えし、ゆめ会議メンバーはしかしいつもと変わらぬマイペースでのぞみます。

以下、ご報告を。

***************

湯治村塾アート部会 会議録

日時 2009.8.20(水) 19:00〜21:00

場所 鳴子中央公民館

コーディネーター 横山英子氏(横山建築設計事務所代表取締役)

講師 加藤種男氏(アサヒビール芸術文化財団事務局長)
 金代健次郎氏(財団法人 文化・芸術による福武地域振興財団事務局長)
 吉川由美氏(ダハプランニングワーク代表)
 村上タカシ氏(宮城教育大学准教授)

オブザーバー 大場陽子氏(作曲家)

NPO法人東鳴子ゆめ会議
 塾長 大沼伸治
 塾生 遠藤明、氏家厚志、高橋聖也、尾形篤、堀江邦夫、門脇篤

テーマ:アートによる地域再生や地域振興を行い、芸術選奨を受賞されたアサヒビール芸術文化財団・加藤種男氏、瀬戸内海の島をアートで再生、一大アート拠点としている文化・芸術による福武地域振興財団・金代健次郎氏、このほど鳴子でアート・プロジェクトを実施された吉川由美氏、仙台でのアート・プロジェクトや宮城県への文化提言を行っている宮城教育大・村上タカシ氏を講師にお招きし、コミュニティとアートの連携による湯知美コンテンツの研究を行う。

【要約】
・吉川由美氏(ダハプランニングワーク代表)
鳴子温泉郷にある5つの湯に渡るアート企画「“生きる”博覧会」をこの8月上旬に実施した。オランダ在住の向井山朋子氏の作品には、参加した人がまさに「コペルニクス的」とも言える体験をし、非常にクリエイティブになるなどの成果があった。川渡小学校では川渡の砂でガラスをつくるワークショップを行ったが、子供たちが喜んだのはもちろん、参加したお母さんたちもワークショップを通して「ふるさとをもっと大切にしなくては」という思いを語っていた。鳴子は食にせよ、お湯にせよ、「生きる力」を与えうる場所である。健全なコミュニティものこっている。都会ではこうした「生きる力」を感じることが難しくなっている。こうした「生きる力」を与えられるという点をうまく提示できれば、これまでとはちがう接点で客を呼べるのでは。

・加藤種男氏(アサヒビール芸術文化財団事務局長)
鳴子は松尾芭蕉の訪れた場所である。芭蕉は日本各地でたいへんな歓待を受けた。江戸時代の日本には文化のネットワークが存在し、地方でも連歌の素養のある人が少なからず存在した。各地で歌仙が行われていたものの、いつも同じ仲間うちではそれがマンネリ化し、レベルが上がらない。そこへ新風を吹き込み、レベルをあげてくれる連歌のさばき手としての存在が芭蕉だったのであり、芭蕉はワークショップ・コーディネーターとしての類まれなる才能をもった人物だった。しかし今日、こうした「座」を取りもつ文化形態をわれわれは失ってしまった。当時の連歌に匹敵する文化形態を生み出せないか。そうした場として、温泉はたいへんな潜在力をもっている。

・金代健次郎氏(財団法人 文化・芸術による福武地域振興財団事務局長)
福武では瀬戸内海の直島で20年ほどにわたり、アートをやってきた。しかし当初から地域に根ざしたことをやってきたわけではなく、最初期は創業社長による趣味的なものにとどまっていた。これが二代目社長に経営が移り、社名をベネッセ(=よく生きる)に改称し、アートを通じて地域振興を行おうという機運がうまれた。そのきっかけになったのが「家プロジェクト」である。直島では古い民家が壊されていくということがあり、町からこれを何とかしてくれないかという話が持ち込まれた。そこで民家をリノベーションし、そこに地域に根ざしたアートを展示することにした。宮島達男氏は世界的なアーティストで、デジタルカウンターを使った作品を制作しているが、この時はじめて地域住民に参加してもらい、作品を制作した。これがターニングポイントとなり、アートで地域に入っていくという今のかたちができあがった。その後、一杯飲み屋や銭湯をアート作品としてつくる「落合商店」や「直島銭湯」がつくられている。そこでのポイントは「誰にでも分かる作品」「アートの日常化」である。また、地域の活力は広域的に考えていかないといけないという発想から、瀬戸内海をエリアとした「瀬戸内芸術祭」の開催を来年に予定している。アートと地域、企業との関係性は常に動的であり、相互にどうメリットがあるかを常に考えつづける必要があると考えている。

・村上タカシ氏(宮城教育大准教授)
仙台の商店街でプロジェクト型のアートを行ってきた。プロジェクト終了後、横丁が活性化され、7つの空き店舗に契約が結ばれた事例もある。いかに理解してもらい、継続してくかがポイントであり、さまざまな人とコミュニケーションをとりながら活動を進めている。鳴子はいろいろなプログラムが可能な場所であり、グッズやショップなどの展開もできるのでは。宮城県の予算7840億円の中、文化予算は23億円ある。これは比率としては微々たるものだが、文化施設などに丸投げせず、地域の活動に回してもらえれば相当のことができる。そのため、アーツカウンシル(文化評議会)の設立を提案している。時代により、これまでいろいろなパラダイムの転換があった。産業革命しかり、情報革命しかり、昨今の環境しかり。この後に来るのがより豊かに生きるための革命、いわばアートの革命が来るのではないか。1つの前例ができるとそれが他地域へと飛び火する。鳴子でやったことが他地域へと影響を及ぼしていくとおもしろい。

【今回の部会で学んだ点】
これまで4年間にわたって「GOTEN GOTEN アート湯治祭」を行ってきたが、アートと地域との関係性について、どうとらえたらいいのか(すべて受け入れるべきなのか、もっと地域に根ざした作品を作ってくれと言ってもいいのか)という疑問を多くのメンバーが感じていた。これに対し、講師からは一致して「地域がいらないアートは受け入れる必要はない」という示唆を受けた。アーティストは、その作品をここで展示する必然性を地域住民に説明する責任がある。また、地域住民もそうしたことを尋ねる必要がある。両者がそうして議論したり考えたりするプロセスをへることで、よりよい作品に育っていったり、地域住民の側で思いもよらなかった点に気づかされたりし、お互いの関係性を深めたりするきっかけを得ることができる。東鳴子でのこれまでのアートに関しては、そうした「必然性が高いとは言えない」との指摘を受けた。しかし同時にプロセスをもっと大切にすることとで、アートによってまちが変わる可能性もあるとの明るい展望についても全国からの事例をもとに例示していただき、アートのすばらしさを再確認するとともに、アートへの視野を広げることができた。さらに、これまでの4年間を概観する画像をみなで見、アートをこれからも継続していく意志を確認するとともに、まちにのこっていくアートができないか、などの意見が出た。具体的な来年のプランについては、旅館という場をいかし、こどもやお年寄りを巻き込んだ「鳴子御殿湯こども旅館」なるアイデアが出された。