THE BIG ISSUE 102号(創刊5周年)

中島岳志の眼 日本の貧困とインドの貧困より

ワーキングプア、非正規雇用、派遣労働など
新自由主義政策の下で深刻化する労働・貧困問題に
注目が集まっている

このような中、新自由主義者が「反貧困」運動を展開する
若者に投げかける典型的な語りがある

「日本の若者の貧困よりも、インドの貧困の方が過酷だ
格差だってインドの方が大きい
インドに比べれば十分贅沢な暮らしができる日本の若者が
貧困を問題にするのは甘ったれている証拠である
この程度の貧困には耐えられるはずだ。我慢が足りない」

この議論はインド研究者である私にはまったく納得できない
スラムの人たちの暮らしは確かに貧しい
4畳半ほどのスペースで5,6人が生活し、失業者があふれている
衛生状態も悪い

しかし彼らにはしっかりとしたコミュニティがある。
日々の生活で極端な孤独に陥ることはなく
家族や近所、友人などの人間関係が濃密な
社会状況のなかで暮らしている
彼らには自分の居場所があり苦楽を共にする身近な他者が存在する

一方で現代日本の若者で貧困に中にいる人たちは
このような人間関係までも喪失していることが多い
ネットカフェで寝泊りし明日の仕事があるかどうかも
わからない不安定で不安な毎日を送る彼らには
自己のアイデンティティを確認する居場所がない

このどちらが本当につらい現実なのだろうか?
新自由主義者たちの想像力を欠いた語りに出会うたびに
私は憤りを込めて問い返すことにしている

<レンゲショウマが高尾山に咲いています>