貧乏という窮地が生む創意工夫とエネルギー

「ワセダ三畳青春記」 高野秀行

1989年から2000年まで、木造二階建て古アパートの
三畳間(終盤四畳半)に住んだノンフィクションライターの
正統的貧乏青春記だ。

家賃1万2千円、風呂なし共同トイレの生活を
「大家は浮世離れしており、住人は常軌を逸した人ばかりで、
また私の部屋に出入りする人間も奇人変人の類が
マジョリティを形成していた」と著者は要約する。
早稲田大学で探検部に所属し、後輩が住むアパートに一室を得た著者は、
極端にケチな守銭奴、受験勉強する変人のケンゾウ、
アホな関西弁の成田などと同じ屋根の下で暮らす。

毎日のように騒動があり、(寝返りの音がうるさいという隣室からのクレーム)、
探検部ならではの幻覚植物の人体実験、三味線入門、テレビがやってきた等、
いまどきとは思えない話ばかりが繰り広げられる。

本書を読んで痛感したのは、貧乏という窮地は、
創意工夫を生み、ある種のエネルギーとなるということだ。
11年間、風呂にはめったに入らず、風呂代わりに区営のプールに
通ったおかげで、カナヅチだった著者が泳げるようになった、というのはその一例。
貧乏が身を助けることもある。

<あやめがきれいに咲いています