大人になることの難しさ —青年期の問題 河合隼雄

社会とのつながり

大人になることは社会の成員になることである
その社会のもつ規範を取り入れ また
その社会を維持してゆくことに貢献しなくてはならない
しかしながら我々は未開社会のように 社会を不変の決定された
システムであるとは考えず それが進歩してゆくものと考えている

したがって社会の成員になるということは既成の枠の中に
自分を入れ込んでゆくこととは限らず
枠そのものの変化の過程に自ら参画してゆくことだということができる
社会の成員になるということは既成の鋳型のなかに
自分を流し込むことではないのである

青年期は家の建て替えをするようなものであると述べた
青年期とは自分自身の変化と社会の変化ということが微妙にからまる時期である

目をもっぱら外に向けて社会への奉仕とか変革とかに熱中しているうちに
内的にも変化が生じて立派な大人になる人や
目をもっぱら内に向けて自分の内的な世界の変革に力を注いでいる人も
知らぬ間に社会人として通用する大人になっていることもある

内的、外的と言ってもこれらは思いの外にからみあっていて
どちらか一方のことに真剣に関わる限り
他の一方のことが関係せざるを得なくなってくるものである
ただその人の個性によってどちらか一方が得意であると言うことは生じてくる

青年期においてはともかく強い衝動が内的に生じているので
何か新しいもの、何か変化するものを求める傾向が強くなるのは当然である
青年期の初期においてはそれは極端な場合 たとえ事態が悪くなろうとも
何らかの変化であれば歓迎したいというほどのものになる

『大人たち』の好きな安定ということが最も我慢ならないのである
このような強い変革願望を 社会というある程度できあがっているシステムの中に
どのように持ち込むかということが青年期の課題なのである

それは単純な場合には少し変わった服装をしてみるということに表されるであろうし
強力な理論武装を持って社会に変革を要求するという
強い異議申し立てとして表されることもあろう

一応できあがったものとして存在している社会と何らかの意味で
そこに変革をもたらそうとする青年の力とそれらの烈しいぶつかり合いの中で
青年は鍛えられて大人になってゆくのである

大人たちは青年の変革への強い意志に対してそれが時に
途方もない形をとって表されるにしろ 深い理解をもつと同時に
青年の前に強い壁となって立ちはだかり それをはねのける強さを持たねばならない
そのようにして鍛えることによってこそ青年は社会の成員として育ってくるのである

<パンジーは冬の寒さにも負けない花です>