ロッキード事件が発覚した当初、自民党の中曽根康弘幹事長から
『もみ消し要請』があったとする米側の公文書が見つかった
内容もさることながら表記が興味深い
言葉をめぐる日米関係の一端を見る思いがする

文書を読むと、もみ消す意味の『HUSH UP』に続けて
(MOMIKESU)と日本語のローマ字表記を残している
この『もみ消す』は政治的陰影に満ちた要請のキーワードだ
単純に『HUSH UP』に置き換えていいものか
訳した米側担当者は悩んだのに違いない

戦争末期にポツダム宣言を「黙殺」するとした日本の回答を思い出す
徹底抗戦派を抱えつつ終戦を模索していた政府にはぎりぎりの表現だったという
これが相手方には『無視』『拒絶』の意味に英訳されて伝わったとされる

広島と長崎の惨事はそれから間もなくだった
『ベルリッツの世界言葉百科』には
『この1語の英訳が違っていたら原爆投下はなかったかもしれない』とあるそうだ
鳥飼玖美子さんの『歴史をかえた誤訳』に経緯が詳しく書かれている

日米繊維交渉の佐藤・ニクソン会談では『善処する』が『最善を尽くす』と通訳された
だが佐藤首相は『善処する』の日本語的な意味どおり何もしなかった
腹芸的な言葉がまっすぐに訳されて日米関係はこじれていった

そしていま、鳩山首相の『トラスト・ミー』である
政治的陰影をかなぐり捨てた直球をもみ消すすべはないようだ
1つの言葉が時に背負う重みを冒頭の文書から思い巡らせてみた

・・・・・最近読んだ内田樹の「日本辺境論」が思い浮かびました・・・・・

<エリカは冬の花なんですね>