社会の問題を見極めるため 違和の声積み上げ 鷲田清一より

何も決まらない。何も片付かない。何の見通しもつかない。
まるで袋小路に迷い込んだようなそんな気配が
このところずっと、私達の社会を覆っている

そうした中で打たれる手はそれこそ後手後手で、脈絡が見えない
その場しのぎで対応しているうちに
問題はかえってほどきようもないほどにもつれ、いびつになる
そして打つべき手がいよいよ見えなくなる

一方、この現状に苛立ちをつのらせる人々は
事態のこじれをなんとしても特定の誰かの失態や
無能に帰さずには気がすまず
粗い言葉のつぶてを四方八方に投げつける

今私達に必要なのは、状況への違和の感覚を
冷静に、しかし執拗にもち続けることではないかと思う
事の深因への認識がおぼろげにせよ一定度
共有されることになるまで

組織の論理に従って判断し、行動することをカントは
例え公務員としてのそれであっても、やはり知性の「私的利用」でしかないとした
知性の「私的利用」とは、それを自分個人のために使うことではなく
特定の社会や集団の中で、自らにあてがわれた立場に
ひたすら忠実に振舞うことだと考えたのである

社会が今本当に直面している問題を探ろうとする時に
度の合わなくなった眼鏡を取り替えることが必要な時に
割り当てられた職務に無批判に振舞うということは
問題に眼を閉ざすことにしかならない

そこで必要なのはむしろ他者のあるいは自分自身の中の
違和の声に耳を傾けることである
そしてそれらを上からの指示を待つことなく互いを突き合わせ
すり合わせる中でじわりじわり下絵を準備してゆくことである

上から下へでなく、下から上へ積み上げること
毎週金曜日の、組織の論理で動くのではない市民たちのデモンストレーションも
そうした試みの一つとして湧き起こっているように思う

<ペンタスも夏の暑さに負けず咲き続けます>