「子どもの自殺」の社会学 「いじめ自殺」はどう語られてきたのか その1

伊藤茂樹より

◎子どもの自殺という社会問題

・平成24年の警視庁の自殺統計によると
0歳〜19歳の自殺率、すなわち当該年齢人口10万人あたりの
自殺者数は2.6であり、例えば全年齢層の21,8
20歳〜29歳の22.5に比べて極めて少ない

・厚生労働省の「人口動態統計」による0歳〜19歳の
自殺者数は戦後日本において多い年で3000人弱
近年は概ね500人前後出ていることが分かる

一方朝日新聞における0歳〜19歳の自殺報道件数と見比べると
自殺者の数と報道された数にあまり相関関係が見られない

(こどもの自殺者数がもっとも多かったのは1955年頃で2800人
新聞報道が最も多かったのは1979年で70件だった)

◎「いじめ自殺の発見」
・学校内の日常的な事柄が重大な教育問題とみなされるようになってきた背景には
学校の「社会的位置」や「社会的意味」の変容がある

学校は将来もたらされる価値あるもののために
現在は努力したり耐えたりするような場所から
現在安全に居心地よく過ごすことが重視されるような場所に変化した
つまり、何か別の価値あるもの(知識や地位など)を得る「手段」としての学校観
(=「未来志向」で「手段的」な学校)から
そこにいることにより得られる「充足」に重きを置く学校観
(=「現在思考」で「充足的」な学校)への変化である
また、後者の学校観を支える論理として子どもの権利、人権が
言われるようになったことも指摘できよう

学校の意味や学校への期待がこの様に変化した状況において
子どもが学校で安全に快適に暮らすことを脅かすような事態は
何よりも避けるべき重大な問題と見なされる
学校で子どもがいじめられて苦痛を感じたり
それによって死を選ぶような事態がその典型であることは言うまでもなかろう

・もう一つ、私たちが他者と取り結ぶ人間関係や
それに対する見方や姿勢の変化についても考えておきたい
いじめの問題化より少し遅れて大人の世界でも
人間関係に関する事柄が社会問題化することが増えた
それはセクシュアルハラスメントやストーカー、児童虐待、DVなどである
この様に比較的身近な人々の間で生じる人間関係上のトラブルが
社会問題化するケースの先がけがいじめだったと位置づけることも出来よう

<イチョウが黄金色です>