少年犯罪 からだの声を聴かなくなった脳 瀬口豊廣より その2

・血友病患者ら1800人がHIV(ヒト免疫不全ウイルス)に感染した
「薬害エイズ(AIDS)問題」は、いじめの最たるものではなかろうか
エイズ(後天性免疫不全症候群)はHIVに感染したために
身体の免疫機能が損なわれ、通常は身体に害を及ぼさない
各種のウイルスや細菌、真菌などに感染することによって
身体機能が低下し、やがては死に至る病気である

薬害エイズ問題とは、主に血友病の患者が出血を止め
あるいは予防するための特効薬として用いられた
非加熱血液製剤の中にHIVがふくまれていたために
全血友病患者の約4割に当たる1800人が感染し
うち400人がすでに死亡していると言われた事件である

1989年、大阪と東京のHIV訴訟原告団が国(厚生省)と製薬会社5社
(株式会社ミドリ十字、バクスター株式会社、日本臓器製薬株式会社、
バイエル薬品株式会社、財団法人化学及血清療法研究所)を
被告として提訴した
この問題は1996年1月、村山首相の突然の辞任を受け、橋本内閣が成立し
厚生大臣に就任した菅直人氏が原告に謝罪し同年3月に和解が成立した

厚生省はようやく国の責任を認めたものの、それは当時非加熱血液製剤の
使用を継続することを決定することに関わっていた役人や企業の幹部の弁ではない

日本は血液製剤の90%を輸入に頼っていたが、その輸入先のアメリカでは
防疫センター(CDC)が1983年3月、非加熱製剤の中にHIVが混入している
疑いがあるという警告を発し、加熱製剤への切り替えが行われていた
その全く同じ時期、日本では血液製剤会社の最大手ミドリ十字で人事が行われ
厚生省薬務局長と局出身の2人の人物が社長と副社長に就任している

加熱製剤の開発に遅れをとっていた同社は、アメリカの加熱製剤最大手の
トラベノール社にますます引き離されるのを恐れていた
また、輸入した血漿原料や非加熱製剤が売れ残って巨額の損失が出ることも
恐れていた。これらの事態を「好転」させるために、どうしても厚生省の力が
必要だったのであろう。企業と省庁の癒着、これはサリドマイド薬害事件のときと同様
人の命を犠牲にしてでも企業の在庫廃棄に伴う損失を食い止めようとする
組織的策謀であることは明らかである
この薬害エイズ問題で、のちに裁判で争われることになった元帝京大学副学長の
安部英に関することはここでは触れないことにする

さて血液製剤の50%を輸入していたミドリ十字という製薬会社が
中国で3000人もの生体実験による殺害を行っていた「731部隊」の幹部たちが
作った会社であることはご承知の方も少なくないと思う

「731部隊」というのは1936年から1945年まで中国のハルビン近郊で
病気の原因の解明や、生物(細菌)兵器開発のため人体実験を行っていた
部隊のことで、創設者で部隊長を務めた石井四郎軍医中将の名をとって
俗に石井細菌部隊とも呼ばれていた。そこではおよそ25種類の病気についての
人体実験を行っていたことが確認されている

敗戦の年の8月9日、ソ連軍がソ連国境を越えて南下してくると
日本国内から証拠隠滅の指令が下され、建物や人体の標本などを破壊して
隊員たちは日本に逃げ帰ってきたのだが、逃げかえるのに失敗しソ連につかまった
2人の隊員がいた。彼らは1年余り後、ようやく人体実験をしていたことを自白する
そしてソ連側検察官は1947年1月に隊長の石井四郎以下2人を尋問したい旨
アメリカに通告した。すでに東京裁判(極東国際軍事裁判)が始まっていたが
アメリカはその実験のことを2回にわたる尋問調査でも知らされていなかった
GHQのマッカーサーは驚いてアメリカ国防総省(ペンタゴン)と連絡をとったが
一切文章に残すなという意味を含めた
「部隊の高官たちを戦犯免責にし、その代わり部隊で得た人体実験のデータをすべて
アメリカが入手せよ〕との指令を受ける
東京裁判で「731部隊」に戦争犯罪が問われなかったのは、このような裏取引があったからだ

戦後、公的な職に就くことが許されなかった731部隊のメンバーの中に
内藤良一という人物がいた。彼は1951年朝鮮戦争に従事するアメリカ軍兵士に
輸血用の血液を供給するために日本最初の血液銀行「日本ブラッド・バンク」を
発足させた。この事業で莫大な利益を得た同社はやがて全国最大の
血液供給ネットを誇るようになる、これが後の「ミドリ十字」である

「731部隊」で行っていた人体実験とは次のようなものである。
様々な種類の細菌を身体に注射する
生きたまま脳を開いてどこを刺激するとどこが反応するか
空気注射をするとどこまで耐えられるか
真空の部屋にいれると人間はどうなるか
高速で回転させるとどうなって死ぬか
胃と腸を入れ替えるとどうなるか
馬や猿の血と入れ替えるとどうなるか等々
日本の医者たちにとっても魅力的な実験だったようだ(『731部隊』東方出版)