いじめとは何か 教室の問題、社会の問題 森田洋司より その8

*子どもと学校をつなぐ糸(ソーシャル・ボンド理論)
・子どもたちの場合、学校との間に紡がれる
ソーシャル・ボンドは学校への「意味づけ」からなる、
1本の糸だけではない
例えば、「自分の通う学校の伝統を誇りに感じている」
「所属するクラブが好きで頑張りがいがある」
「気軽に話せる友達がいる」
「クラスの雰囲気が好きだ」
「給食のおばさんが親切で自分たちのことを大切に
思ってくれる」
「英語は自分の将来の役に立ちそうだ」
「理科の実験は面白い」・・・・など、学校という
社会的な場に投げかける、意味づけの束からなっている

・この束が細いほど、子どもと学校とのつながりは弱く、
問題行動が生まれやすくなる
逆に太いほど学校への結びつきは強くなり
問題行動は発現しにくくなる
ソーシャル・ボンドは問題行動を抑止する力を秘めている

・アメリカの犯罪社会学者T・ハーシは
ソーシャル・ボンドのこうした働きに着目して
犯罪や非行の発生を実証的に明らかにした
彼の「ソーシャル・ボンド理論」は欧米でも日本でも
様々な角度から検証され,特に軽微な非行に
説得力の高い理論として評価されている
また、犯罪や非行以外の問題行動についても
説明力を持つとされている
ハーシは、糸の束の要素として
「愛着」「投企」「巻き込み」「規範の正当性への信念」を
挙げている。

・ソーシャル・ボンド理論が今なお有効な理論と
されている理由は、これまでの発想を逆転させ、
説明力を高めたことにある。
これまでの逸脱行動論では、特定の少年が
「なぜ規範を破るのか」という問いをたて
その答えを求めようとしてきた
これに対してソーシャル・ボンド理論は
特定の少年が「なぜ規範を守ろうとするのか」
という問いに応えようとした。

物理学に喩えれば、従来の理論が日常世界から外れていく力、
つまり『斥力』に着目していたのに対して、
ソーシャル・ボンド理論は日常世界の中に
とどまろうとする力、つまり『引力』に着目するところに特徴がある

ソーシャル・ボンドの働きはそれだけにとどまらない。
子どもたちが学校というミニチュア社会とつながることで、
1人前の大人として社会へとつながり
豊かな人生を送る能力を培う契機を得る助けとなる
またソーシャル・ボンドは私事化により、
個人がリスクを引き受けざるを得ない
状況にあって、公共性を再構築する方途を示唆するものである