人はなぜ「いじめ」るのか 山折哲雄・柳美里(著)より その1

生野照子.山岡昌之.鈴木真理(編)

・私たちが日々診療している外来では、
 現在「いじめ」の只中で苦しんでいたり、
 過去に「いじめ」られた体験が精神障害を引き起こしていたり
 人間不信感が職場や家庭生活を歪めていたりなどの
 相談事がしばしば持ち出される
 
 時には、患者さん自身が自覚しているかどうかにかかわらず
 明らかに「いじめ」を受けていて、それがきっかけで
 うつ病や摂食障害や不安障害を発症しているケースにも遭遇する

 わが国において「いじめ」が増加しているかどうかは
 正確な推移は不明であるが、2012年の統計では
 少なくとも警察庁が介入する「事件」となった「いじめ」だけでも
 260件に及ぶようである

 
 外来での話に出てくる「いじめ」の様相は、極めて凄惨である
 「いじめ」られた体験は、その人を時には生涯にわたって圧迫し
 悪夢のフラッシュバックを繰り返させる

 自信を失い、自分の存在価値を疑い、生きる意義を否定させる
 他者への不信感は、得られるはずの幸せまで破壊し
 自らの足元を揺るがす事態となるのである

 特に最近では「いじめ」られた子どもが自殺にまで
 追い詰められる 事件が増えている。
 傍から見れば普通に育っていると思える子どもが
 なぜ、友達を死に追いやるほどの「いじめ」をするのであろうか

 その心の奥に潜むのは、その子の特質か、人間関係の本性か
 あるいは一種の動物的エネルギーの漏洩なのであろうか
 
 一方、「いじめ」られた子どもは、なぜ「いじめ」から
 脱出できなかったのだろうか。SOSを出せなかったのだろうか
 訴えても状況が変わらなかったのだろうか
 我慢すべきだと思っていたのだろうか

 それにしてもこんなに悲しいことはない。こんなに悔しいことはない