2008年3月8日。
午前中は冷ややかな曇り空だったが、午後にはお日様も顔を覗かせ、風もなく、春の訪れを感じさせるのどかな昼下がり。
午後1時半。
現地・近江八幡市立島小学校体育館での準備作業が始まると、地元消防団の青年達が実に手際よく、体育館にシートとゴザを敷き、座布団とイスを並べていく。
NPO法人滋賀県映画センターからお借りした巨大スクリーンをステージのバトンに設置し、PAとプロジェクターも設営。
ほどなく、「島町の宝探し探検ツアー」参加者がぽつぽつと集まりだす。
午後3時。
ツアー、開始。
なんと、想定していた定員(20人)を大きく上回る30人(うち13人は子ども)が参加してくれて、随分にぎやかな「大名行列」が、しずかな島町内を練り歩いた。
島小学校の郷土教育/風水の龍穴地形/古い家並みと石垣/由緒ある神社とむべ伝説/清浄な池にすむホトケドジョウ/人知れずお地蔵様の世話をする老人/山々の巨岩信仰とご神木/放置竹林と獣害問題/北山田再生プロジェクト/6世紀の古墳群
たった60世帯の箱庭のようにコンパクトな農村集落のなかに、うずもれた「お宝」が実にたくさんある。
「お宝」をめぐりながら、映画『ほんがら』のみどころや撮影時のエピソードなどもたくさん話した。100分間もの映画にでてくる全てのシーンが、この小さな空間の中だけで構成されていることに、改めて気づく。
とちゅう、地元の老人が、自分の家に代々伝わる伝説を熱く語ってくださった。
「口から口へ伝え聞くだけで、この在所には記録が何も残ってないんや。」
彼らの語りが、口伝えの伝説が、文字にならない貴重な「記録」なのだ。
午後5時。
ツアーご一行様が体育館に帰ってくると、中庭にテントを張っていた地元有志が、待ちかねたように手づくりのおにぎりと豚汁をふるまった。地元の夏祭りや文化祭で、この手のサービスはお手の物だ。
よそからのお客さんと地元住民が、顔をあわせ、声を交わし、交流することができる。
お客さんにとっては、手のぬくもりが残るおにぎりと愛情たっぷりの豚汁は最高のご馳走。
地元有志にとっては、島町に足を運んでくださった方々の喜ぶ顔を見られるほかに、小遣い程度の現金収入も得られる。(もっとも、1食200円ぽっきりだったので原価すれすれにしかならなかっただろうが…。)
これぞ、コミュニティビジネスの原点ではなかろうか。
午後5時30分。
ぼちぼち観客が集まりだす。
顔なじみのおじいちゃん、おばあちゃん達も、いかにも楽しみな様子だ。
体育館後方に展示した写真や関連資料を熱心に見入る人もいる。
この日のためにわざわざ作っていただいた「ほんがら」の模型が誇らしげだ。
午後6時。
いよいよ開演!!
広い体育館の会場は、ほぼ目標通りの300人近いお客さんで埋まった。
司会は、もうすっかりお馴染みのO氏。
実は、O氏は同じ日の午後1時から滋賀県甲賀市で開催された、日本ブラジル交流100年を記念してのドキュメンタリー「PERMANENCIA〜この国にとどまって〜」上映会のMCを終えてから島町に駆けつけての強行軍。
主催者あいさつでは、H氏節が炸裂。
DVDの売上が私たちひょうKOMAの活動を支えていることをPRし、理解を求めた。
来賓あいさつでは、近江八幡市長が島町にあついエールを贈ってくださった。
そして、照明が落とされ、地元島町在住のソプラノ歌手・磨谷真理さんによる童謡メドレーが始まった。のどかな農村の、暗くなった体育館に、澄み切ったソプラノが充満する。
午後6時30分。
歌が終わると同時に、映画が始まった。
思わず笑ったり、こぶしに力が入ったり。真剣に見入る300人。
松明に灯が灯ると、感嘆の声が響いた。
長いようで、あっと言う間の100分間。
午後8時10分。
上映が終わると、嘉田由紀子滋賀県知事から届いたメッセージが朗読され、島町自治会長に手渡された。
そして、監督・長岡野亜氏のトーク。
監督が、映画に登場した老人たちを数名前に呼び出し、一言ずつ質問していく。
映画の中での生き生きとした表情とは裏腹に、大勢の観客を前にしてガチガチに緊張する老人達が、妙に愛らしかった。
長岡監督には、地元から「鮒寿司」がプレゼントされた。プレゼンターは、昨年の祭でお稚児さんをつとめたHくん。
地元の老人達が今でも毎年作っている鮒寿司のを撮影時にいただいてすっかり気に入っていた長岡監督、満面の笑み。
長岡監督の師匠・原一男氏も、愛弟子の記念上映会に駆けつけてくれ、感想を語ってくださった。自分の教え子だからひいきするわけではなく、映画として世界にも通用しうる、なかなか優れた作品だ、と。
最後に、AAFでいつもお世話になっている、アサヒビール芸術文化財団の加藤種男事務局長から、締めのメッセージをいただいて、地域ぐるみの完成記念上映会は大成功のうちに幕を閉じた。
終了後—。
観に来てくださった友人・知人たちは、口をそろえて「感動した」「感激した」と嬉しい反応。
観に来れなかった人たちからは、早速「ぜひ改めて上映をしたい」との申し出も。
地元からも、
・正直、あそこまで出来上がっているとは思わなかった
・あんなに多く人が見にこられると思っていなかった
・毎日見ている島の風景も良いもんだな
・地元にいながら磨谷真理さんの歌を聞くのは初めて、素晴らしい
・上映会の進行も良かった
といった声が聞こえてきた。映画を通じて、郷土のよさを再認識し、郷土に誇りをもってもらえたなら、こんなに嬉しいことはない。
「完成記念上映会」は終わりましたが、映画『ほんがら』は今誕生したばかり。
まずは草の根レベルで上映会のネットワークを広げながら、「ほんがら」のムーブメントが滋賀に、全国に、世界に「火をつける」ことができたら、と夢は広がるばかり。
これまで関わってくださった皆様に深く感謝するとともに、これからもご支援・ご協力を賜りますよう、よろしくお願いします!!