「社会保障番号」導入構想に反対—反住基ネット連絡会

通常国会を延長したものの、「重要法案」の強行採決に次ぐ強行採決で強引に成立さた阿部内閣。そのためばかりではないが、支持率は急落している。久間発言がさらに足を引っ張ることは間違いない。
さて、今年の参議院議員選挙の争点の1つが年金や社会保険庁改革にあることは衆目の一致するところだが、阿部内閣はそれらに関連して社会保険番号の導入構想を打ち出している。しかし社会保険番号といっても単純ではない。少し長くなるが、ぜひ以下の声明を読んでいただきたいと思う。

声明
プライバシーに対するリスクを考慮しない「社会保障番号」導入構想に反対する
2007年6月27日 反住基ネット連絡会

 年金記録問題に端を発して、年金事務や社会保障全般への住基ネットの利用拡大、さらには社会保障番号の導入が言われはじめています。
 2007年5月14日の参院厚生労働委員会では、安倍晋三首相が社会保障番号制度を導入する考えを表明しました。また6月19日には、社会保障番号を格納する「健康ITカード」の導入を盛り込んだ「経済財政改革の基本方針2007」が経済財政諮問会議より答申され、同日これが閣議決定されています。また自民党でも、参議院選挙向けマニフェスト「『美しい国、日本』に向けた155の約束」で同様の主旨の方針を打ち出しています。
 私たちは、個人のプライバシーを守る立場から、こうした性急な議論に大きな危惧を抱いています。そして、以下の点であらたな番号制度の導入に反対します。
 (1) 社会保障番号の導入は、現在の年金問題の解消とは無関係
 (2) 性急な制度変更は、混乱をさらに繰り返し拡大する結果に終わる
 (3) プライバシーに対するリスクを十分考慮し、「共通番号」以外の手法を採用すべき

◆社会保障番号の導入は、現在の年金問題の解消とは無関係

 まず第一に、今回の性急な議論が「年金記録問題の解消のため」という誤った文脈で浮上したことに、大きな不安を感じています。安倍首相は、加入者が自分の年金記録を容易に確認できる方法として社会保障番号の導入を打ち出していますが、これは明らかなミスリードで、いたずらに議論を混乱させるだけです。
 いま起きている事態は、単に年金記録の管理の問題で、医療や介護の情報とは直接には無関係です。この問題を解消するためだけであれば、社会保障分野全体で横断的に利用する共通番号が必要な合理的理由はまったくありません。年金記録の確認を容易にすることにも共通番号は何ら関係がなく、正しく管理された自己情報に、本人が安全で簡易な手順でアクセスできればこと足りるはずです。

◆性急な制度変更は、混乱をさらに繰り返し拡大する結果に終わる

 第二に、性急な制度変更は、さらなる混乱を招く可能性が高く、その意味でも、社会保障番号の導入は年金記録問題の解消につながりません。
 今回の問題は、基礎年金番号の導入をはじめとした様々な制度変更に、社会保険庁をはじめとした行政、さらに社会全体が対応できなかったことによるものです。現制度下での混乱が収束しないまま、さらにあらたな制度変更、それも他の制度との連携をいまより必要とする変更を行うことは、より一層の混乱を招きます。
 いま必要なことは、まず基礎年金番号制度の安定的運用を図ることであり、あらたな制度変更ではありません。そうした安定的運用が客観的に保証されてはじめて、あらたな制度変更の議論が可能になるはずです。

◆プライバシーに対するリスクを十分考慮し、「共通番号」以外の手法を採用すべき

 第三に、いま打ち出されている社会保障番号導入の議論は、プライバシーに対するリスクをあまりに軽視しています。それどころか、プライバシーに対するリスクと、本人の利益や公共の利益との客観的な比較考量がなされた形跡すらありません。
 医療から年金、介護までカバーする共通番号では、その下に集積される個人情報はあまりに膨大です。しかも、その個人情報は、特に秘匿が必要とされるセンシティブ情報を中心とするものです。また、それが効果的に運用されるには、利用を行政だけに限定することはできません。
 個人情報の主体たる市民個々人がそうしたリスクを引き受けてまで得られる利益とは何か、またはそのリスクを超える公共の利益とは何か。そのことの具体的かつ客観的な検証なくして、拙速にそうしたリスクの高い施策は選択されるべきではありません。
 「経済財政改革の基本方針2007」では、「健康ITカード」のメリットとして、ICチップに記録した診療情報による医療サービスの効率化や、カードを使った認証による年金記録へのアクセスなどがいわれていますが、そうしたメリットに必ずしも共通番号は不可欠ではありません。そのメリットはプライバシーへの重大なリスクを冒してまで得るべきものなのか、この問題に関係する広範な情報主体者を巻き込んだ冷静な議論が望まれます。
 前述したように、少なくとも自己情報への安全で簡易な本人アクセスに、共通番号は不要です。また、ひとつの番号の下に個人情報を集積せずに年金不安の解消や医療の効率化などをもたらすことは、法制度の改革と最新技術の導入により、いかようにも実現可能です。安易に共通番号の導入に向かうより、すでに広く知られている、プライバシー・リスク低減・回避のための技術を導入したシステム設計・開発がなされるべきで、それこそ「イノベーション」を推進する安倍内閣にふさわしい方法論ではないでしょうか。

 私たちは、以上の理由から社会保障番号の導入に反対し、慎重な議論を要求します。
 以上