赤いコートの女−東京女性ホームレス物語

著者の宮下忠子さんにお会いしたのは、もうすでに10年前にもなるだろうか。私(伊藤)が都庁の職員労働組合の役員をしていた時のことである。当時、ホームレス問題は新宿西口地下通路における排除問題などもあって、大きな社会問題となっていた。
宮下さんとお会いしたきっかけは、当時、私が担当したホームレス問題の学習会に講師としてお招きしたからであった。
今日、路上や公園、河川敷等を住まいとするホームレスは、その人数こそ少し減ったかも知れないが、事態はより深刻になっているのではないかと思われる。ワーキングプアやネットカフェ難民といわれる若者の増大、高齢社会の進行にともなう高齢単身者の増大など、世代を超えた生活困難者は確実に増大しているからだ。
宮下さんは「あとがき」で次のように述べている。『東京都で働きながら、それと並行して、長い間ボランティア活動を続けてきたのは、必要なのに職場内では実現しなかった対策やプログラムをボランティア活動によって実践し、それによって外側から政策提案していきたかったからである』。
波さんとハルさんという本書の主人公にそそがれる宮下さんの眼差しは、『過去は変えられないが、未来は変えられる』と語る宮下さんの、長い経験からえた信念にもとづくものにほかならない。国や自治体の政策を変える大きな事業も、結局のところ1つ1つの地道な実践の積み重ねなのだということを本書は教えてくれる。

赤いコートの女−東京女性ホームレス物語
著者:宮下忠子 発行:明石書店 定価:1600円+税