その馬頭琴に見覚えのある修道院長は、赤子を世羽(ヨハネ)と名づけ、教会で育てることにする。修道院長は、1945年の長崎の原爆で間一髪難を逃れた経験を持つ。彼女が失った多くの人々の中に馬頭琴奏者のナランさんがいた。 彼は被爆し亡くなったが、馬頭琴だけは焼けずに残り、一時期彼女が預かった後に、息子が引き取りにやって来た。そうして月日は流れ、再び現れた馬頭琴。やがて赤子は少年となり、宇宙に思いを馳せるようになる。生まれつき足の悪かった世羽は、ある晩、高熱にうなされる。
爪弾かれた馬頭琴の音色と共に、夢の扉が開かれた。
◆監督:木村威夫 (きむらたけお)
1918年4月1日生まれ。 41年に日活に入社後、美術監督作品は200本を超える。『海の呼ぶ声』(45)で美術監督としてデビューし、鈴木清順監督の『けんかえれじい』、『東京流れ者』、『肉体の門』『紅の拳銃』等、日活作品の他に伊丹十三監督『タンポポ』、篠田正浩監督『少年時代』、熊井啓監督『千利休・本覚坊遺文』『深い河』、鈴木清順監督『ツィゴイネルワイゼン』、林海象監督『夢見るように眠りたい』等を担当。その美術は斬新かつ柔軟。近年では、鈴木清順監督『ピストルオペラ』(2001)、熊井啓監督『日本の黒い夏-冤罪-』(2002)、山田勇男監督『蒸発旅日記』(2003)を手がけた。91年、『式部物語』が第14回モントリオール世界映画祭で最優秀美術貢献賞を受賞。さらに、黒木和雄監督『父と暮らせば』や『シベリア超特急』、そして、プロダクションデザイナーとして鈴木清順監督の『オペレッタ狸御殿』(2005)。そして再び、自身監督作品『OLD SALMON 海をみつめて過ぎた時間』(2006)、今作は3作品目となる。また、本年、黒木和雄監督『紙屋悦子の青春』の美術等で、毎日芸術賞特別賞を受賞した。