2010年度1学期の低学年造形クラス

《低学年(1〜3年)造形クラス》
 4月から6月のお話は、チベットのお話『犬になった王子』を基に進めて参りました。このお話の舞台はチベットですから、天にも届くかのような高い山々、ヒマラヤが舞台となっているようです。遊牧民の王子が出てくるのですが、彼は国の民のために、天の神(山の神)が持っているとされる「黄金の穀物の種」を探しに過酷な旅に出ます。九十九の山と、九十九の川を越えていくのですが、その厳しさに、同行した家来たちは次々に倒れてしまい、やっとの思いで天の神のもとへたどり着いた時には、王子ただひとりだけでした。そして、残念なことに、実は種を持っているのは、深い谷間の洞窟に住む蛇の王様であるということを知らされます。

勇敢な王子は、今度は深い谷間へとどんどん降りていき、暗い洞窟へたどり着きます。でも蛇王は穀物の種を人間には決して渡そうとはしないので、王子は留守の間にこっそり種を見つけ出し、胸の袋に入れますが、蛇王に見つかってしまい、犬の姿に変えられてしまいます。

王子という敬われる身分から、一匹の犬という姿に変えられてしまうわけです。外観上は自分の今までの地位を失ったことになります。しかし、王子はその屈辱に耐えながら、天の神が授けた言葉を胸に、旅を続けます。
「どんな辛いことがあっても気を落としてはならぬ。まっすぐ東へ向かって進みなさい。そこで、一人の娘が心からお前を愛してくれたら、その愛によってお前は救われるだろう。」

犬の王子は、ある村で、心の優しい娘と出会います。犬の首にかけられた袋に娘が気付くと、犬は種を蒔けとばかりに、地面を掘っていきます。そのようにして地面に蒔かれた黄金の種は、すくすくと成長していきます。

秋、黄金の穂は実り、風に揺られています。娘は、年ごろとなり、月夜の祭りで、踊りを舞うことに・・・。そこで将来の自分の夫となる人を選ぶのです。村中の若者たちが、娘の舞いを取り囲んでいます。もし娘が結婚すれば、犬の王子は、この後どうなってしまうのでしょうか。二人の愛は実るのでしょうか・・・。

このお話の中で、王子はまず天の黄金の輝きへと昇り、そして今度は暗闇の地下へと降りていきます。神様は王子に助言はしてくれるものの、決して黄金の種を与えようとはしませんでした。黄金とはそもそも、天に属する精神的叡智を表わしています。その黄金が地上で実るためには、人間の「勇気」と「愛」が必要であると、このお話は言っているように思われます。犬にされた時、それは王子にとって、まさに谷底に突き落とされたような心境だったに違いありません。でも、そんなときにこそ、神の言葉は彼の心の暗闇の中で消えることはなかったのでしょう。 ( 造形クラス担当; 細井 信宏 )
参考資料『白いりゅう黒いりゅう−中国のたのしいお話−』チャ−チ・スンチュンピン(編) 君島久子(訳)〔岩波書店〕