きららの森 造形クラス 6月

《 中・高学年造形クラス 》
6月は、舞台を500年前の世界に移し、初めて地球一周を成し遂げたマゼラン率いる乗組員達のお話をしました。マゼランと言えば、厳しい航海に挑んだ勇敢で強い人物というイメージが湧き起こりますが、ここではもう一つの彼の顔にも焦点を当てました。
 文明の発達の影には森林の減少が大きく関わってきました。自国の森を失った文明国ポルトガルは、大西洋に浮かぶ森の島を発見します。その森の一部は大きな帆船へと姿を変え、大航海時代の先手を切ります。本当に地球は丸いのだろうか?未知なる世界への憧れと、香辛料などの高価な品々獲得という野心が錯綜しながら、多くの船がイベリヤ半島から出帆しました。その中の一つ、マゼラン率いる265人を乗せた5隻の船は世界一周へと旅立ちます。乗組員の中での対立や厳しい冬の航海が重なり、また、予期していたものとは異なる表情を見せる世界の実情とその大きさに、彼等は圧倒されます。船の数は減り、食料不足から病気になり、命を落とす者が増えてくる中、マゼランだけは最後まで希望の灯りを消すことなく、リーダーとしての情熱と強さを発揮し続けます。そんな勇ましい彼は、もう少しで世界一周を果たさんとする所まで来たにも拘らず、そのフィリピン諸島で足踏みしてしまうのです。
 マゼランは持ってきた品々の素晴らしさと、強力な大砲の威力を披露し、島の人々はそれらに驚き、大いに関心を寄せ始めます。そして今度は、自分達が深く信仰する神様について語り始めます。マゼラン達がもたらした、初めて見るあらゆるものに圧倒された人々は、その信仰をも受け入れることを決意します。こうしてその島の丘の上に十字架が建てられることとなるのです。しかし、マゼランは他の島へも出向き、自分達の信仰を強要してしまうという行動に出てしまいます。その島の首長は自分達の信仰を重んじ、彼の強引な態度を拒絶します。この時、マゼランは一体何を考えていたのでしょうか…。彼と49人の乗組員達は、鎧を着け銃と弓矢で武装してその島へと向かったのです。
 海岸沿いはサンゴ礁で遠浅だった為、マゼラン達は船を降りて、腰まで海水に浸かって歩くことを余儀なくされます。何とか上陸した岸には、ナント1500人もの島の人々が手に竹槍と石を持って待ち構えていたのです…。最先端の武器は、ここでは十分な力を発揮することはありませんでした。島の人々の勢いに押され、右足を負傷したマゼランは、退却の命令を出します。しかし、彼は更なる攻撃を受け、その場で動けなくなります。彼は海岸に倒れるまで、船へと退却する乗務員達の方を何度も振り返ったと言います。
 リーダーを失った航海は、また大変な苦難の航海でした。3年と1ヶ月をかけて世界一周を終えて港へとたどり着いたのは、たった1隻の船と18人の乗組員だけでした。

 お話の後、子供達に尋ねてみました。マゼランはいい人なのか、悪い人なのかと。するとこういう答えが返ってきました。「どっちとも言えない。」「自分の考えを島の人に押し付けたところが悪かった。」「最後の戦いで、乗組員達が船に戻れるようにしたのは良かった。」勇敢に突き進む力強さは、強引で横柄な拡張した力にもなりうる。このことは現代社会にも充分当てはまる大切な教訓です。文明国がもたらした発展と、先住民達が守り抜いてきたもの。この二つのバランスは、これから私達がこの地球で生き抜いていくための大切なテーマでもあります。
細井 信宏(ほそい のぶひろ)