《低学年造形クラス》
今回の低学年クラスは2回シリーズで、ロシアの昔話『能無しイワンと賢いエレーナ姫』です。お話をして絵を描くことはすっかり子供達に定着しました。お話の時間がくると、クラスは独特な静かな空気に包まれるようになりました。
このお話には、題名に表わされている通り、何をやってもドジばかりしているイワンという青年と、利口で綺麗なエレーナという娘が登場します。話の前半では、そんな2人が結婚することになるのですが、ある時、エレーナは魔法の鏡に写る自分を見て、自分がどれだけ綺麗で賢い娘であるか『知って』しまい、夫を見捨てて、鳥になって空高く飛び去ってしまいます。残されたイワンは孤独の中で悲しみ、一方、飛び去ったエレーナは、遠い土地で王女として君臨することになるのですが、ここまでは現代社会の勝ち組、負け組みといったところです。エレーナは魔法の鏡やら知恵の本やらを所持し、自分の美貌と賢さにすかっり自信過剰となってしまいます。そんな女王の美貌と賢さに魅せられた気高い男たちがプロポーズにやって来るのですが、自分より賢い者としか結婚しないと言い張るエレーナは、自分と知恵比べして負けた者たちの命を次々に奪い取ってしまいます…。
孤独と悲しみの中にいるイワンの世界は、そんな拡張し、上昇するエレーナの世界とは全く反対の世界です。しかし、お話はさらに展開し、そんな引き裂かれた2つの世界は最終的に一つに結ばれるのです。
イワンは愛する妻を捜しに過酷な旅に出て、途中に出会った、困難に遭遇した動物たちを助けていきながら、最終的にはエレーナ女王の住む国にたどり着きます。しかしエレーナは能無しのイワンを自分の夫として認めようとしません。そこでイワンとの知恵比べが始まります。もしエレーナの出す難問にイワンが答えられれば、エレーナはイワンを夫として迎え入れ、もしイワンが答えられなかったら、イワンは処刑されるということになりました。もちろん知恵比べでは、エレーナに勝てるはずもないのですが、ところがどういう訳か、最終的にはイワンが勝ってしまうのです…。
このお話の節々にはイワンの優しさや思いやりが込められています。それは旅の途中で動物たちを助けたり、お母さんへの愛情や、妻への愛情として表れています。この『思いやり』こそが、引き裂かれた2つの世界を一つにしていきます。お話の最後では、思いやりはどんな知恵にも勝る、思いやりこそ最も素晴らしい知恵であると、そう語っています。
知恵比べに勝ったイワンは、エレーナが今まで人の命を奪った罪を許し、二人は心からの妻と夫として結ばれることになります。多くのお話では、最後には悪い者が火に投げ込まれたりという罰が下されることがよくありますが、このお話は『許し』で締めくくられています。
エレーナの知恵とイワンの思いやり。この2つが合わさり、素晴らしい人間像が誕生したと言えます。
細井 信宏