【水害浸水写真修復活動について】
監事 萩野茂樹
●4000枚の写真をお預かりして
先に報告したように、7月14日〜17日に日本災害救援ボランティアネットワークのメンバーや大阪大学人間科学部の先生や学生と共に倉敷市真備町のHさんのお宅で活動しました。その際に水浸しになったご家族のアルバムを、預かって来ました。
アルバムの量は、その後宅配便でお送りいただいた分を含めダンボール箱6箱分。枚数は約4000枚です。Hさんのお宅と、100メートルほど離れた実家から回収したアルバムです。写真は、ご家族の赤ちゃんの頃、結婚式、家族旅行など失われると二度と戻らない「家族の宝」ばかりでした。
●『被災地水害写真復元活動』の実施
水に濡れた大量のアルバムは、ポケットアルバムや、『フエルアルバム』などにきちんと整理されているので、すべての写真がフィルムに覆われています。このフィルムと画像の間に、毛管現象により水が浸透するため、画層の乳剤がふやけてネチョネチョになるという形で画像の劣化が進みます。また、気温が高いためカビも発生し始めています。これを食い止めるためには、早急に乾燥する必要があります。
私は、地域では『津地区ボランティア連絡会』という福祉分野、環境分野を中心とするボランティア団体が加盟するネットワークの副会長をしています。
そこで、会の役員に相談し、多人数のボランティアを募り『被災地水害写真復元活動』として開催することにしました。
急遽会場等の手配をすると共に、主催は、津地区ボランティア連絡会、日本災害救援ボランティアネットワーク。津市社会福祉協議会の協力として開催することにしました。
7月21日(土)、22日(日)に第1回を、8月4日(土)、5日(日)に第2回を開催し、津地区ボランティア連絡会加盟サークルの他、津市社会福祉協議会の職員のボランティア参加や、津市役所では職員メールにより全職員への呼びかけ、SNSによる情報発信などに応えて延べ約90人の方が作業に加わっていただきました。
この作業は、『被災地に行かなくても、年齢・体力に関係なくだれでもできる支援』ということで、多くの反響があり、また新聞も3紙で紹介されたこともあり、高齢の方も含め多くの方にご参加いただきました。
●作業環境について
多人数の作業のためには、広いスペースが必要です。会場は、150人以上収容できる津市中央公民館のホールや、津市社会福祉協議会の会議室をお借りしました。
作業内容に関しては、浸水したアルバムは建物内の戸棚等に保存されていたもので、また海水ではなく川の水による浸水であるため、多少の泥汚れはあるものの多量の水で泥を洗い落とす必要は無く、一般的な会議室の机の上に古新聞を敷くという環境で作業しました。また、消毒用エタノールを使用するため、匂い等の懸念があり当初活性炭入のマスクも用意しましたが、実際に作業を開始すると、各自ティッシュに含ませる程度の使用であり、匂いはそれほど気にならず、換気に注意するだけにとどまりました。当然、アルコールは可燃物であり火気は厳禁ですが、すべての室内は禁煙のためその心配も不要でした。
また、主催者としては、使い捨てのビニール手袋、ティッシュ、下敷きの画用紙、古新聞、ビニールと紙用のゴミ袋、参加者の人数分のエタノールの小分け容器(うなぎのタレ用の容器)、作業終了の写真を保存するA5サイズのプラスチックケース等を準備し、参加者には錆びることの無いステンレスのハサミを各自持参いただくように呼びかけました。
●作業手順
作業の手順は、まずハサミでアルバムの台紙とフィルムごと写真を一枚づつ切り離します。それから、表面のフィルム等を剥がし、写真両面の水分を簡単に拭き取ります。 次に画像の水分を含んでネチョネチョになった部分をティッシュで拭き取ります。この作業は、それほど難しい作業ではなく、水分に侵されていない部分の画像は結構丈夫で、2〜3枚作業するとすぐにコツが掴めます。
ネチョネチョ部分は拭き取るとすぐに乾燥し取れなくなるので、消毒用エタノールを含ませたティッシュで、その部分を拭き取ります。この作業は、エタノールが蒸発するため、水を使う場合のように乾燥の必要がありません。また、消毒用エタノールはカビの発生を防止する効果もあるということです。
今回は、作業の効率化のために、先にネチョネチョ部分を大まかに拭き取り、それを新聞紙上にならべ一度乾燥し、次に残った拭き取り残し部分をまとめてエタノールで拭き取るという作業進行としました。
また、元の写真はすべてアルバムに整理されていたものなので、写真が混ざってしまわないように番号を付け、アルバム単位で作業を進行しました。
作業中の写真は、アルバムごとにシリカゲルと共にプラスチックケースに入れました。その際、縦に入れる事で、拭き取りの終わっていないネチョネチョが、重ねた写真の裏にくっついてしまわないようにしました。
●作業はまだ残っています
計4日間の作業で、全ての写真の乾燥作業は終了したものの、現時点ではあと600枚ほどの拭き取り作業が残っています。しかし、緊急に作業の必要があった乾燥は終了しているので、残りの作業は日を改めて実施したいと考えています。
●捨てられた写真
しかし残念なのは、Hさんのご近所では、アルバムはすでに全て捨てられたとの事でした。家屋が泥水に浸かり全ての電気製品や多くの木製家具等を大量に捨てる作業に忙殺される中、写真の修復まで気がまわらないという現実。また、学校の体育館での避難所暮らしの中、浸水写真の自身での修復は不可能に近いという事もあることでしょう。
また、自宅に支援に入ったボランティアに出会っても、大量の写真を修復して欲しいとは、なかなか頼み辛いということもあると思います。今回も、捨ててしまいそうになったアルバムを見つけ、『捨てるのは忍びないので、持ち帰れば修復できると思います』と申し出てお預かりしました。
その現実があることを前提として、『失われれば二度と戻らない写真という宝』をどうにか復元することも必要なことでしょう。