松力の湯と玉川全円耕地整理事業

しばらくさぼっていましたが、ひさしぶりに、東京からの「銭湯のあるまち」レポートをお届けいたします。

「松力の湯」は世田谷区等々力にありますが、最寄り駅は東急大井町線の九品仏駅か尾山台駅です。住宅街の真ん中にある和風建築で、番台、前栽、格天井、富士山と西伊豆の海の絵と伝統的な東京の銭湯の要素がそろっていて、脱衣箱が少なめで、脱衣籠を使うのがメインなのも伝統を感じます。また、大きな古い振子時計がかかっていて、「上野毛町○○寄贈」と書かれていますが、上野毛までは3kmほど離れていますので、広い範囲からお客さんを集めていたのかもしれません。

たまたま敬老の日だったからでしょうか、ボランティアの方?が、足が不自由なお年寄りの方といっしょに来られて、扉の開け閉め、その他入浴の手助けをしておられました。おじいちゃんは自分で体を洗い、浴槽につかられたのですが、足の不自由な方でも意外に入浴できるんですね。ただ、どこの銭湯でも同じですが、脱衣場、浴室とも空間が広くて、掴まるものが少ないこと、それから扉が大変開けにくいこと、このあたり工夫の余地があるかもしれません。

さて、松力の湯がある住宅地は、昭和の初め頃、当時の玉川村の豊田村長さんのリーダーシップで、玉川村のほぼ全村約1100haという広大な区域を区画整理し、住宅地としての基盤を整備した「玉川全円耕地整理事業」区域のただ中です。現代の自動車時代でも十分広い区画道路がどこまでも碁盤の目に広がっています。

事業の区域は現在の東急緑ヶ丘、奥沢、自由が丘、田園調布、九品仏、尾山台、等々力、上野毛、用賀の駅付近を含む広大な範囲で、これらの地名は今では東京を代表する高級住宅地として有名ですね。宅地開発が目的の事業ですが、名目は耕地整理なので、区画が普通の住宅街より少し大きめです。このことが高級住宅街となる一つの要因だったかもしれません。

松力の湯は、商店街でもなく、昔の集落でもなく、本当に住宅地の中にあり、近所には畑も残されていてブドウ畑なども見かけます。でも旧玉川村内の各方面からは通いやすい位置だったのようですし、現地を歩いてみると、縦横にかつての河川の名残もあります。近くの畑には風車らしきものもあって、風呂上りには涼しい風が吹いていきました。人だけでなく水も集まる場所・・・銭湯にぴったりの場所なのかもしれません。

松力の湯 東京都世田谷区等々力5−20−19 東急大井町線九品仏駅、尾山台駅から徒歩10分程度、自由が丘駅からもすぐそばまで気持ちいい緑道を歩いて行けます。こちらは徒歩15分。営業時間 16:00〜23:30