生涯学習セルフ・カウンセリング学会会長 渡辺康麿先生の講演より

「不登校、引きこもり、ニートなんてどこにもいない!」
〜名称に振り回され、問題の本質を見失っている大人達〜 

・大人の側が名称を子どもに押し付けている

 不登校について
不登校、ちょっと前でいうと登校拒否児は、世界中に一人もいません。
登校拒否児がいるって思っている大人がいるだけなのです。
たとえば、ある時、子どもが学校へ行きたくないと言って行かなくなる。
大人は、大変と思います。起きなさいといって起こそうとすると
ベッドの柱にしがみつく、引きずられるようにしても、もうどっかの柱にしがみつく。
とにかく、何が何でも柱にしがみついて離れない。
そんな状態を大人は、登校を拒否している。登校拒否だ。
今だと、学校に行かないから不登校だと言っているのです。
大人は、学校に行くのがいい事だ。当然の事だと思っているから、
学校に行かない事だけを問題にして、学校へ行くようになる事だけが
問題の解決になると思っているのです。
大人としては、学校に行く=社会に順応している と思っているからです。
子どもが社会に順応していると学校に行っている事で実感したいのですね。

では、子どもの方は、どう感じているのでしょう。
子どもは、本当に学校に行きたくないと思っているのでしょうか?
私は、違うと思っています。
学校には、行きたいのです。でも、行かれないのです。
何故か?それは、友達との関係かもしれないし、
先生との関係かもしれないし、または、親への反抗心かもしれない、
理由は、その子どもそれぞれ、実に様々なのです。
ただ、学校に行けば解決するというような単純なものではないのです。

 引きこもりについて
引きこもりも同じです。
大人の側が働いて欲しい、職場へ出て社会へ出て欲しいと思っているのに、
家にばかりいる。
出て欲しいと思っているから、引きこもっているという風に見えるのです。
そしてここでも、引きこもっているならどうやって引っぱり出すか、という事に
なってしまうのです。引っぱり出す事ばかりに問題が集中してしまうのですね。

当人は、家にばかりいたい訳ではないのです。
当人なりに、家から出られない理由があるのです。
どうにかしたいけど、どうしたらいいかわからない。
でも、周りからは、家から出て社会に出て行く事ばかりを求められます。
家から出さえすれば、問題が解決すると思っているからです。

 ニートについて
ニートにいたっては、私としては、憤激以外の何者でもない名前なのです。
もともとこれは、イギリスで国策として出てきた名前です。
イギリスで若者の就労状態の調査が行われました。その時に失業者とは別に
労働意欲がなくて働かない若者が多くいる事が分かりました。
そのような若者達につけられた名称がニート NEETです。
[Not in Education, Employment, or Training] という言葉の頭文字を
取って作られた言葉です。
学ぶ意欲も、働く意欲も、職業訓練を受ける意欲もない人たちという意味です。
政治家が政策の立場から見た発想でつけた名称です。
若者の労働人口が減ってくると、国力が衰えます。そのことを問題にした名前なのです。
その名前の中には、一人一人の子どもの気持ちなんてまったく問題になっていないのです。

 真の問題解決とは?
学校に行けるようになればいい。よく勉強していればいい。
働いていればいい。社会に出ていればいい。
それだけを問題にすると、それさえ出来るようになれば全てが解決、という事に
なってしまうのです。
そこだけに問題が集中して、あの手この手で何とかしようとしてしまいます。
本当にそれで問題が解決するのでしょうか?
学校に行っていれば、一生懸命勉強していれば、働いていれば、
社会に出ていれば、それで全てがうまくいくのでしょうか?
現に大人である私達は、社会に存在し、働き、家庭を持ったりしています。
でも、それだけで全てうまくいっていると思えるのでしょうか?
全てがうまくいっていると思える人は、一人もいないと私は、思います。
生きている以上、私達の身に起きる出来事は、そんなに単純ではないのです。
子ども達も同じです。
これさえ出来れば全て問題が解決するという単純な事では、ないのです。

では、どうしたらいいのでしょう?

 私達は、どのような未来を切り開いていけばいいのか?
私達は、日々、変化する状況の中で生きています。
今までは、これでうまくいっていたけれども、状況や条件が変われば
同じ様にうまくいくとは、限りません。
子ども達も同じです。
今まで経験した事がない、様々な出来事にぶつかった時、
もしかしたらつまずき、立ち止まるかもしれません。
でも、過去の自分を振り返り、自分なりに解決策を思いついて、
自分なりにやってみて、そして自分なりにその結果をもう1回引き受けて、
試行錯誤しながらきっと乗り越えていくでしょう。
周りの大人は、子ども達がそのプロセスを歩めるように受けとめ、
子ども達を信じて、見守っていればいいのです。

大切なのは、親も子どもも、大人も子どもも、
一人のかけがえのない人間として、たくさんの思いを抱えながら
一生懸命生きているという事です。
親や大人側から一方的に、
学校に行くべきだ、社会に出るべきだ、働くべきだ、と
その事だけを問題視して、問題の解決をはかろうとするのではなく、
大人も子どもも自分自身の心の問題として受けとめ、
過去の自分を振り返り、見つめ直す事で
お互いを生かし合える未来を切り開いていって欲しいと思います。

 自己発見学、自己形成学、そして人生学とは?
私は、登校拒否児が問題視された頃から、30年の年月をかけて、

自己発見学・・・過去の自分を振り返る事で自己変革を促し、
 お互いを生かし合う知恵を創造する方法

自己形成学・・・自分がどのように生きてきたかを振り返り、どのような経験から
 どのような価値観を獲得しながら生きてきたのかを実感する方法

というプログラムを作り、普及に取り組んできました。
目の前の出来事に対して、沸き起こってきた一人一人の心の問題を
自分自身で振り返り、お互いを生かし合う道を創造する方法です。

ぜひ、子ども達ばかりを問題視するのではなく、大人である私達一人一人も
自分自身の人生をよりよく生きる為に、
過去の自分自身の経験から得た価値観だけに捕われるのではなく、
現在、目の前にある問題を新たな視点で見つめ直し、自分なりの解決策を
創造し、お互いを生かし合う未来を切り開いていって欲しいと願っています。

本年度は、「私達は、いかに生きるべきか」をテーマに置いた
人生学塾も新たに開講する予定です。

多くの方に参加していただき、
自分自身も含め、お互いを生かし合い認め合える未来を目指して欲しいと願っています。
そして、生きる喜びとは、お互いを生かし合い認め合えた時にこそ、最も
実感する事が出来るのだという事を思い出していただきたいと願っています。

〓問合せ先〓
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