第157回講演会 人類の誕生と世界への移動 講師 庄田悦久

1.人類学の変遷
従来の人類学は人骨(身長、頭形、歯型)の分析により行われた。1970年代からDNA(デオキシリンチポ酸)分子生物学の発展により、人類の進化を正確に分析できるようになった。
「人類は100万年以上前にアフリカで誕生し、アジアや欧州に広がりその地で進化した」という多地域進化説(ホモエレクトス;ジャワ原人、北京原人、ネアンデルタール人等)が主流であったが、今では「新人類(ホモサビエンス)は、10〜20万年前アフリカで生まれて、6〜7万年前に中東を経由して世界に広がった」との説になっている。

2.世界への移動
人類は当初はチンパンジー同様の生活をしていたと考えられるが、次第に人口
が増えると食べ物の奪い合いが起き、猛獣による被害も受け、安全で食物のある地を求めて移動を始めた。 (図;篠田謙一)

3.DNAによる人類の進化
1)DNA分析について
人体は約60兆の細胞からなり、細胞には核があり、核の中に両親から由来する2組の染色体が存在している。23対・46本の染色体のうち1対が性染色体である。個々の染色体はDNAとヒストンなどの蛋白質を主成分とした巨大な構造物である。
DNAにはアデニン(A)シトシン(C)グアニン(G)チミン(T)という4種類の塩基
配列に遺伝情報が書かれている。
2)DNAに関係する言葉について
*ゲノム;ヒト一人を作るための遺伝子全体のセット
*遺伝子;人体を構成している様々な蛋白質の構造やそれが作られるタイミングを記述している設計図。
*ミトコンドリアDNA;全塩基配列図
*ハプログループ;塩基置換が比較的起こりにくい遺伝子をコードしている部分の突然変異を分類の基準にした概念

4.日本人は何処から来た?
日本列島への移動は以下の6つの経路が考えられる。
①地理的に近接した朝鮮半島から
②ユーラシヤ大陸から樺太経由
③カムチャッカ半島から千島列島経由
④中国から台湾、八重山列島、南西諸島経由
⑤中国から東支那海を渡り九州へ (航海技術が進んでからの経路)
⑥ユーラシヤから日本海を渡り能登半島へ
しかし日本人のルーツについては、周辺各地の人とハプログループがかなり違うので、はっきりしたことが言えずもう少し発掘が進み、検体が多く出てくるまで待つ必要があろう。