あいちコミュニティ財団の労働基準監督署是正勧告,元職員からのパワハラ申告,代表交代.

あいちコミュニティ財団の労働基準監督署是正勧告,元職員からのパワハラ申告,代表交代.
http://aichi-community.jp/news/24598

ソーシャルビジネスというかソーシャルスタートアップの人材の薄さ,旧来のNPOや財団の時代遅れ感が露呈したと思う.
いくつか典型的なポイントを整理したい.特に寄付者(企業,個人)に対して,そしてソーシャルビジネスで仕事をしたいと考えている年下のみなさんへ.

●「1000-100-10」キャリア
1000人以上の起業家の相談を受け,100以上の起業にコミットメントし,自ら10以上の事業を創業した経験を持つ者.
広くソーシャルセクターで,資金提供を担う者やスタートアップ支援を行う者には必須のキャリアである.

特に公益財団クラスや年1000万円以上の支援事業を受託している組織において.
欧米の財団をいくつもヒアリングしてきて,日本の社会背景にあわせると,この「1000-100-10」キャリアは最低ラインといえる.かつ,当該事業で1000万円程度の年収を確保できたキャリアも必要である.
そのくらいのキャリアがないと,資金提供先の目利きをできないし,新規創業のアドバイスもできない.

個人的には,新規の公益財団設立は,コアになる「1000-100-10」人材がいて,当人が本業とする決意でもってのみ,成立すると思う.
なので,「1000-100-10」人材があきらかに存在しない,公益財団やなんとか支援財団の設立は,かなり懐疑的にみている.さらに踏み込んでいえば,そのような財団に寄付する人がいること自体不思議だ.

●業務に耐えうるスタッフがいない
今回のあいちコミュニティ財団の労務問題の本質部分は,ソーシャルスタートアップだったのに,それに見合うスタッフがいなかったことだと思う.
新たな事業領域に切り込んでいくとき,起業家ではなく労働者しかいなかったわけだ.
この点は,僕が代表のSocial Design Fundでも何度も起こった問題で,端的に言えば,ソーシャルスタートアップに労働者としての仕事はない.労働者の立ち位置である以上,「1000-100-10」人材には絶対成長しない.ということは,この労働者に将来の仕事は無く,雇った組織も衰退していくしかない.

この労働者としてソーシャルビジネスで働きたい問題は,日本の飼い犬教育の成果もあって,深刻な問題である.
10年前は指定管理者制度,近年は若者雇用関連の委託事業によって,本業を見失ったNPOの経営陣サイドにも責任がある.
要は,ソーシャルスタートアップを担える人材が極端に薄いのである.これは日本社会全体の将来にかかる深刻さである.

●なぜ公益財団法人を目指すのか?
ここで,ソーシャルスタートアップの普通の感覚をもっているなら,なぜ維持費用・固定費用の高い公益や認定を目指すのか,という矛盾があきらかになる.
企業にとって寄付が経費となる,公益や認定は法人の信用性を高める,などといわれるが,すべて嘘といえる.
企業にとっては広告宣伝費の方が事務の手間も少なく全額経費算入できる.
公益や認定法人は,法人そのものの維持管理コストが上昇するため,肝心の事業のパフォーマンス低下に直結し,当然ながら信用は落ちていく.さらに,公益や認定を持つと,事業の自由度が制約され,事業のパフォーマンスを落としていくばかりか,自主財源確保意欲も削ぐ.
寄附が収入の一定割合となる非営利系法人であれば,然るべき会計処理をすれば法人所得税は発生しない.

個人的には,公益や認定をとるメリットの説明で,納得できるものは一つもない.ほかにより効果的・効率的な手があるからだ.
まあ,企業や行政,監督官庁は目利きできないので,公益や認定がつくと信用されやすい,というのは分かるけど,それはまともな経営判断ではない.

●新理事会の時代遅れ感
だれも財団の仕事を本業としていない.
40歳だった元代表理事と比較すると年齢が高すぎで,フロンティア精神を一切感じない.
高齢の大学男性教員が舵をとるという愚の骨頂.
しかも,理事会の協議で組織をガバナンスしていくという時代遅れの典型発想.

繰り返しになるが,経営戦略的に,「1000-100-10」人材を中心に事業展開するしか方法はない.
まずもって,この財団,愛知でどのNPOやソーシャルビジネスが優れているか,現場で目利きができない.
特に,これから育つ・育てたいスタートアップを把握することはできなくなっただろう.
具体的な役立つサービスも開発できなくなった.

ということは一流のソーシャルビジネスは,もう相手にしなくなったということだ.

総じて,日本の財団スタッフには,「一流のソーシャルビジネス経営者と対等の話ができるか」という点を再確認してもらいたい.
煩雑な書類や報告義務と50万円程度の助成金,その費用対効果にみあうのは二流以下のソーシャルビジネスだ.したがって財団の相手をしているのは二流以下の事業体だ.まずその認識を確認すべきだろう.

●ビジネスサイドから入って,ソーシャルスタートアップの出口にでる
これからソーシャルスタートアップを考える人は,NPOやソーシャルの入口から入ってはダメだ.
すでに5年くらい前からこの傾向にあった.
個人的な経験から話すと,NPOやソーシャル領域の人たちの言っていることが理解できなくなり,ベンチャー系のスタートアップ関係者と話していること(スタートアップの課題など)が一緒になっていたからだ.お互いのキャリアは全く違うのに.

協議や共同というのは,要は,アイディアが無いということであり,明確なビジョンをもったリーダーもいないということだ.
そのような組織に,自らのスタートアップや組織の未来を相談するのは,無駄でしかない.

なんというか,日本のソーシャルスタートアップがままならない状況というのは,なんとかならないものか.