2 何故、日本語は普及してきたか
何故、日本語がここまで海外で普及したのか。それは、日本の経済成長(アジアにおける比較優位の確立)とグローバリゼーションの進展による各国の多言語教育政策やその他の要因による相手国の国内言語政策が日本語普及の要因である。
多言語教育政策とは、複言語主義や多文化主義に伴う各国の国内言語政策を指す。グローバリゼーションの逆説的から生じた複言語主義も多文化主義も一つの言語だけを学ぶのではなく、複数の言語を学ぶこと及びその機会の提供することを要請する。事実、世界で3番目に日本語が学ばれているオーストラリアでは、1987年までは言語政策とは同化政策の要であったが、以降LOT(Language Other Than English)への転換を導く言語政策(National Policy on Languages)が承認された 。その中で日本語が初等中等教育のカリキュラムに第二外国語の選択科目として加わったのである。勿論、当時のオーストラリアの外交課題として、英国のEC加盟後、環太平洋経済圏に国家としての生き残りを決意し、アジアで有数の貿易相手国が日本であったため、日本語が選ばれた点も忘れてはならない 。同じような日本語の普及の過程は、他の国でも見ることができる。韓国では、1962年以降強い国家を目指し開発独裁と呼ばれた大規模な経済発展計画を推し進めてきた朴正熙大統領が、日本の技術協力や援助に備えるべく高校に日本語を強行に導入した 。その後、経済政策の一環として観光開発に力が注がれ、日本語教育に拍車がかかったこと、また、大学入試で日本語が韓国語と文法が似ているので他の言語より簡単に点が取れるため第二外国語として選択された ことで日本語が普及した。マレーシアでもマハティール前首相のルックイースト政策の一環で日本語教育が取り入れられた。
日本の経済力と相手国の国内政策による日本語普及という過程は、今でも変わることなく、当てはまる。事実、2003年から2006年までに日本語学習者が増えた上位国は、インドネシア(3.2倍)、インド(2.0倍)、中国(1.8倍)だが、その理由として、インドネシアは中等教育段階での制度変革、インドと中国は日系企業の進出とそれに伴う日本語学習による雇用機会の拡大、があげられている 。
これまでは、アジア地域における比較優位を有する経済力による日本語学習者の増加(必然)とグローバリゼーションの進展による各国の多言語教育政策や相手国の国内言語政策(幸運)に任せていけば日本語学習者の数は増えていったのである(必然と幸運の連鎖) 。