「『東部メコン次世代航空調査』について」 谷口 友孝
掲題のJICA調査は、増加する空の交通量に対処するために2025年までに何をすべきかを、次世代の新しい航空技術を用いて計画する調査です。この新しい技術とは、航法を地上の無線施設に頼っていた今までの方式を空の衛星に変えることと、飛行機自体の航法性能を上げることです。調査結果のロードマップは、ベトナム、ラオス、カンボジアの3カ国空域により多くの航空機が効率よく飛べるようにするために、 3カ国が協力して次世代システムの整備を行うことができる将来への道標となります。2009年3月に現地調査を開始したこの調査は2010年3月の完了を目指します。
1、調査の目標と課題
本調査には以下3つの目標があります。
・2025年を目標年次とする次世代航空保安システム整備に係るマスタープランを策定すること。
・2015年を目標年次とする短期的アクションプランを策定すること。
・本調査を通じて3カ国への技術移転を図ること。
本調査の難しさは、技術、財政、人材などの各レベルや組織が全く異なる3国を統合したひとつのビジョンをどのようにして創るかにあります。また、本調査には今までの開発調査にはなかった以下の特徴があり、コンサルタントにとってはチャレンジングな調査と言えるでしょう。
・3カ国を同時並行的に行う開発調査であること。
・ひとつのマスタープランを3カ国が共に『合意して共有』することが前提となる調査であること。
2、アプローチ
上記遂行のため本調査では以下のアプローチを試みました。
(1)新しい航法の導入による空域の一元化
本調査では国連の航空計画に則した新しい航法技術(PBN: Performance Based Navigation)に基づく飛行方式を採用することによって飛行ルートと飛行時間を短縮し飛行容量を増やすことを考えました。
この新航法を採用するためには、現在の航空路にとって代わる新たな航空路の設定が必要となり、それに合わせた地上の航行援助施設または衛星を含めたシステムの整備が必要となりますが、 PBN航法を導入することで既存の無線航行援助施設を最大限に利用することができ、新たなシステムの導入を最小限に抑えることができるという利点のほうが大きいと考えました。
(2)レーダデータを共有した管制システムの統合化
カンボジア、ラオス、ベトナムの3カ国をひとつのエリアとしてみると、11基のレーダが3カ国内で別々に稼働しており、過剰な数のレーダが設置されているように見えます。航空管制業務は現在3国でそれぞれ独自に行っているため、レーダデータは3国間で共有されていません。もし、これらの管制情報が3国間で共有されれば、航空管制としてはより一元的なシステムが構築できる可能性があると考えました。
3、コンサルタントの愉しみ
ベトナム、ラオス、カンボジアの3カ国が、数あるODAの中から日本を選んだのは偶然ではありません。その理由に彼らは『航空分野での日本の技術力の高さ』と、『過去から今日までのODAによって築かれた日本との絆』をあげています。
国際開発コンサルタントの役割は今後外交面での比重がより高くなると思います。日本の政府調査団に従事しているコンサルタントが協議する相手は先方政府の実施機関、指導機関、監督官庁などであり、日本側はJICAや、調査に関連する当該省庁になります。このように、コンサルタントの対応が必要な相手先は技術に関連する機関だけではなく政策および外交にかかわる機関も多く、そこでのコンサルタントの発言や見解は外交的な影響力があります。
したがい、技術外交を発揮できる発展途上国の開発プロジェクトや国境を越えた創造開発プロセスは、人生を燃焼させるに十分な価値と魅力があると感じています。ただし、酒を飲まずにはできない職業であるとも感じている昨今です。