今月のレポート 「圓尾さんおすすめの6冊—紹介文 」

「圓尾さんおすすめの6冊—紹介文 」 平井 もも

 「コーヒー」と聞いて思い浮かぶイメージは、一体どんなものでしょう。
 わたしは、白いマグカップに注がれた薫り高いブラックコーヒーをイメージします。
 親しい人とゆっくり過ごすシーンにある飲み物、忙しい日々にふっと息を整えて気分転換をするための飲み物…など、コーヒーの香りとともに、実にいろいろなシーンを思い起こすことができます。この次々の湧き上がるコーヒーの魅力とは一体どこから来るのだろうと、わたしはずっと不思議に思っていました。今回ご紹介する本は、その答えを見つけ、またその興味を更に広げ、よりコーヒーの世界に魅せられる機会となりました。
今回ご紹介します6冊の本は、ALLNet会員でありますコーヒー専門家の圓尾修三氏から、『チェンマイ近郊少数民族の生活向上プロジェクト』の基礎勉強用としてご紹介いただきました。ぜひとも皆様に、コーヒーの魅力はもちろんのこと、そこから見えてくる様々な世界を知っていただきたいと思いご紹介したいと思います。
「そもそも『コーヒー』とは」という基礎編から、応用・発展編まで6冊を以下の順序でご紹介します。

●タイトル:『コーヒー学入門』
著者;広瀬幸雄・圓尾修三・星田広司
出版:(有)人間の科学社

 昔々コーヒーはどんな人々によってどんなふうに飲まれていたか、コーヒーの起源に始まり(歴史学)、栽培の現場(栽培学)、コーヒーの香りの源はなにか(焙煎学)など、本書は入門編といっても、かなり細かい視点から学術的にまとめてあります。特に印象的だったところは、「エキスコーヒーの成分分析(pp.154)」です。コーヒーの成分研究のために自作器具を使い、香りと成分と抽出時の温度を分単位で変化を研究しました。とてもマニアックで一般人には知り得ない世界だと、著者の「コーヒーに対しての興味はいったいどこまで尽きないのか」と引き込まれました。本書を読了する頃には、自分自身もすっかりコーヒーの奥深さにどっぷりと浸りコーヒーの香りが忘れられなくなります。本を読む前のコーヒーの味と、読了して飲むコーヒーは、「同じコーヒー」でもまったく「別の飲み物」だと気づく一冊。

●タイトル:『ロマンス・オブ・コーヒー(歴史編)』
著者:W.H.UKERS 共訳:広瀬幸雄・圓尾修三
出版;いなほ書房

 現在世界各国で親しまれるコーヒーは、一頃には「悪魔の飲み物」と呼ばれ、また「コーヒー禁止令」出される歴史がありました。欧米を中心にしたコーヒーに関わる人々とその生活が、鮮明にイメージすることが出来きるロマンチックな内容です。
 昔々唯一の娯楽としてのコーヒーを楽しむという文化は、他の飲料に負けず劣らない人気で、その文化は変わらずに残っていると納得することができました。
 しかし同時にこの本で気づくのは、ただの「コーヒー」で、ここまで歴史や文化ができあがったことへの疑問です。わたし達人はもう数千年も前からずっとこの「コーヒー」に喜ばされて悩まされ時には争いの原因になるなど、まったく振り回されているのではないかと思うのです。それはもう長いこと、わたし達はコーヒーの魅惑に騙されているというとこに気づきました。
 本書では、コーヒーのロマンチックな面と、その反面病み付きになってしまうほどのコーヒーの魅力に取り付かれた人々の歴史に、驚かずにはいられないそんな内容が掲載されています。

●タイトル:『コーヒーの香味を探る+風味表現用語集』
著者:圓尾修三・広瀬幸雄
出版:旭屋出版

 「フルティー」なコーヒーに出合ったことがあるでしょうか。わたしはこの一冊を読んだ後、圓尾氏のご紹介を受けた東京虎ノ門にある「老舗コーヒー専門店・松屋珈琲」店を訪れました。そこで出してもらったコーヒーは、まさに「フルティー」の香りがしました。砂糖を入れていないのにほのかに甘くそして味に膨らみがあり、きつねにつままれたような錯覚に陥りました。しかしこの本をよくよく読むと、その理由がはっきりとわかりました。
 本書には味・香りの表現や、その原因が詳しく書かれています。この味でコーヒーの市場値段が決まるわけですが、それは誰がどのような方法で行っているのか(カッピング)の内容が掲載されています。「いつも日常で飲むコーヒー」の味はどんな特徴があるか、もう一度味を確認したくなる、おすすめの本です。

●タイトル:『なるほどコーヒー学』
著者:金沢大学 コーヒー学研究会
出版:旭屋出版

 本書は金沢大学公開講義の内容をQ&A形式でまとめて書かれた一冊です。奥深いコーヒーの世界を、大きく解説されたデーターをもとに、コーヒー入門者にわかりやすいように書かれています。
 中でも興味深かったこところは、コーヒーと健康についてでした。「コーヒーはダイエット効果があるのか」など以前TV番組で紹介され、一時ブームになったコーヒーの美容効果などについて、科学的な説明が書かれてあります。日常に親しまれているコーヒーのまさに『なるほど』と思い豆知識を身につければ、コーヒータイムで話に花を咲かせることができ、和やかなシーンのコミュニケーションをより楽しむことができるのではないでしょうか。

●タイトル:『コーヒー大辞典』
出版:帝国飲食料新聞社

 コーヒーについて専門知識を学ぶ際に必要な辞典です。コーヒー生産国各国の統計や、コーヒーに関する専門用語を掲載。インターネットで検索しても出てこない専門用語も数多く掲載。

●タイトル:『おいしいコーヒーの経済論『キリマンジャロ』の苦い現実
著者:辻村英之
出版:太田出版

 コーヒーは石油に次ぐ大きな市場規模ですが、その規模ゆえにたくさんの問題が起こっています。本書では、グローバルフードシステムの中で「コーヒーの市場価格形成の不公正さ」の課題について経済学観点から問題をとらえ、フェアトレードの働きによって、生産者の自立・内発的努力を活発化することを論じています。データーにもとづく理論がシンプルにまとめられており、生産国の問題について、国の経済だけでなく貿易関係・各国間の力関係など幅広い視点から、論じられています。コーヒーに秘められた、畑から市場に出回りわたし達消費者に届くまでの、さまざまなストーリーを知ることができるでしょう。
 この本の一章に書かれていたらタンザニア・ルカニ村の生活の様子を知り、わたしは現地の人々は自分たちの栽培しているコーヒーを、自分たちで加工して日々の生活の中で、愛飲しているのだろうかと疑問を持ちました。飲んでいるとしても、畑仕事などの労働をした際に好まれるコーヒーは、砂糖・ミルクたっぷりのコーヒーが好まれるでしょう。そうすると、風味などあまり関心がないように思いますが、世界中の市場で、タンザニアのような小さいコーヒー生産国が勝ち残るには、風味がよくなければコーヒーは市場で高く売れません。生産を維持する最も必要な条件である、栽培の現状維持などは、村の人はどのように行っているのでしょう。
 わたしが携わっている『チェンマイ近郊少数民族の生活向上プロジェクト』で植樹・栽培をしている地域では、現地の人々はインスタントコーヒーを飲む人はありますが、自分たちで加工したコーヒーを飲むことはほとんどないように聞きます。現時点ではチェンマイ大学の定期的な指導のもと、一定的な栽培状況は維持できていますが、いずれは自立していかなければなりません。それには、自分たちでコーヒーの風味や味の良し悪しがわからないと、栽培管理が維持できず、大きなコーヒー市場では出場することはできたとしても、勝ち残れないのではないかとわたしは危惧し対策はないかと考えています。
 この生産管理・維持の問題は、全世界のコーヒー生産国でも共通の問題になっているとこの本にも書いてあります。生活の糧のためにといえ、自分たちの親しみがないと思われるコーヒー栽培について、ルカニ村の人々はどのようにとらえているのか、もう少し知りたいと思いました。