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 夫を亡くした80歳のある女性は、夫が集めたお宝である茶道具や皿などの骨董品を整理しようと思い立ちました。子どもたちに聞くと、息子も娘もいらないと言います。そこで夫が生前よく購入していた古美術店に、お宝を売りたいからと見積もりを依頼しました。

妻は夫からそれぞれの購入金額を聞いていましたので、古美術商から提示された金額に耳を疑いました。買い値よりあまりにも低すぎたからです。しかし店主は、買取ではこの金額になると主張しました。

この女性は、自分はだまされているのではないか、価値あるものを、女だから、年よりだからということで不当に安くされているのではないかと疑いました。そこで別の店にも見積もりを依頼しました。金額は同じようなものでした。それでもまだ信じられず、三件目に見積もりを頼みましたが、ここもそう変わらない金額でした。つまりそれが相場だったのです。

亡くなった夫は、お宝をいくらで買ったかは教えましたが、売る時には買い値の何分の一にもなってしまうということを妻に教えてなかったのです。

しかしよく考えてみると、モノの売り値は仕入れ値に経費や利益を上乗せしたものです。
普通10万で仕入れて、10万で売る店はありません。ですからよほど特殊な事情がなければ、古美術商が売った値段で買い戻してくれるわけはないのです。

 また次の例はセミナーでよく紹介するのですが、父親が息子に、バブルの時に100万円で買ったツボをお前にやるからありがたく思えと言います。しかし息子はそんなものはいらないと断ります。まず趣味に合わないし、置くところがない。父親は、これは100万もしたんだぞ、と威張ります。そこで息子は、くれるなら現金で100万くださいと言い返します。

 この父親は100万、100万と言いますが、売る時にはスズメの涙でしょう。子どもたちに何かを譲る場合は、相手が喜ぶかどうかを考えてください。
 
そうそう、三件の見積もりを取った先の女性は二件目の店主に売ったそうです。 
なぜですかと聞くと、値段が同じなら「いい男」に売りたいとのことでした。

『定年男のための老前整理』2014年 徳間書店 より

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