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親の遺品整理をした経験から、「自分の子どもにこのような思いをさせたくない」と老前整理を始めたという人も少なくありません。
なぜ遺品整理がそれほど大変なのかといえば、まず膨大なものの量です。押入れやtたんすの中に入っているものを全部出してみると、トラック数トン分はあたりまえと言っても過言ではありません。
この何トン分もの遺品をすべて見ていくにはどれほどの時間とエネルギーが必要でしょう。たんすの中には衣類が山ほどある。するとポケットに財布や小銭が残っていないか確認する。鞄類もそこに何か残っていないか調べてみる。引き出しには手紙や領収書、買い物メモまでぎっしり。写真が出てくるし、40年以上前の古い株券が出てきたけれど、これはどうなるのだろう。こっちの引き出しは眼鏡三つに入れ歯まである。父親の式服も箱に入ったまま残っている。
こうして、どこに何が紛れているのか分からないので、細かく見ていかなければなりません。紛れているもので一番多いのは現金です。へそくりや何かのお金を封筒に入れてどこかにしまいこんでいたり、貴重品や通帳、印鑑などもどこにあるかわからない場合がほとんどです。この作業は、親のプライバシーを侵すことになり、知りたくなかったことまで知ることになるかもしれません。
五〇代の女性Mさんは母親の遺品整理で引き出しの中に風呂敷包みを見つけました。衣類かと思ったら、片手で持てないくらい重いので、中を見ると全部硬貨でした。
ここではっと気が付いたのです。「母親は軽い認知症だったのでは」。だから、買い物をしても、どの硬貨を出せばよいか分からず、いつも紙幣を出し、お釣りをもらっていた。それを誰にも言えず、風呂敷に溜め込んでいた。
Mさんは遠方に住み、電話だけなので、いつも「大丈夫、元気に暮らしている」という母親のことばを真に受けていました。「どんな思いでこの風呂敷に硬貨を入れていたのかと思うとたまりません」と号泣されました。
遺品整理は残された家族にとって、心身ともに大変なことなのです。
『転ばぬ先の「老前整理」』2016年 東京新聞より
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