伊勢物語・東下りの章段

日 時 平成22年4月19日(月)
場 所 ソリオホール
講 師 山本登朗氏(関西大学教授)
 都を捨てて住むべき国を求めて東国へ向かう主人公の姿を描い
た伊勢物語のうち、東下り章段と一般的に呼ばれている第七・第
八・第九段についてご教示を賜りました。
 伊勢物語は、在原業平の作とする説が定着しており、ほぼその
ようですが、個々に見ていきますと時代や作者が異なると思われ
る所もあり、業平没(880年)後に増補改変が行われて現在のような形になったようです。
 七段(かへる浪)は、京に居づらくなった男が東国を目ざして旅をし、伊勢・尾張の国を過る場面です。
 八段(浅間の嶽)は、男が友人とともにさらに進み、信濃の浅間山の噴煙を見ています。
 ただこれですと、七段と八段とでは歩んだ道に少々矛盾が生じるように思われますので、おそらく別々に作られた可能性があります。
 九段(東下リ)では、三河の国の八橋という所に行きつき、風趣ある杜若が咲いているのを見て、友人が「か・き・つ・ば・た」の折句(『かきつばた』の五文字を句の頭に置いて、旅の思いを詠む)を所望します。
 それが、「からころも きつつなれにし つましあれば はるばるきぬる たびをぞおもう」です。
 この八橋の部分が後年に、古注(注釈:他に旧注、新注もある。)の影響を受け、禅竹(世阿弥の娘婿)によって「能・杜若」として登場することになります。