「嵐ヶ丘」から「本格小説」へ

日 時 平成26年11月8日(土)
場 所 宝塚中央図書館
主 催 宝塚中央図書館
 作家・水村美苗氏の「本格小説」(読売文学賞)について解説
していただきました。
 氏は、少女時代に一家で渡米し、イエール大学でフランス文学
を専攻して、卒業後は米国のいくつかの大学で日本文学を教え
ていたという異色の経歴の持ち主です。
 デビュー作は「続明暗」(芸術選奨新人賞)、第二作は「私小説・from left to right」(野間文芸新人賞)で、今回紹介していただいた「本格小説」は第三作ということになります。
 この小説は有名なE・ブロンテの「嵐ヶ丘」を戦後の日本・米国に転生させたものです。
 「嵐ヶ丘」は前半がヒースクリフとキャサリンの恋愛物語で、後半はヒースクリフの復讐という構成ですが、「本格小説」は後日米国でベンチャービジネスで成功する太郎と良家のお嬢様・よう子の許されぬ恋が中心で、太郎の復讐劇はかなり押さえられています。
 ただ「嵐ヶ丘」をベースにしたとはいえ、ヒースクリフは出自が不明ですが、太郎は満州生まれとしたり、キャサリンは18才で亡くなりますが、よう子は44才まで生きる設定に改変されています。
 なお冨美子(女中:嵐ヶ丘ではネリー)に光をあてるなら、貧しい少女が最後に豊かな生活を手に入れますが、精神的には満たされない思いが残る哀しさが印象的な小説でもあります。