特養さんで利用者さんの
足のトリートメントをしていると
「あれがさ、こうなってたから探したのよね」と
お話が始まった。
「見つからなくて大変でしたね」と私。
「そうなのよ、あの人らはあれをあそこでバラすからね」
「見つからなくなるんですよね」
「そうそうあれは無くなると判りにくいからね」
「でももう夕方で暗くなってくるから明日探す方がいいですね」
「私もそう思っているんだ」
『あれ』はどんな形をしているのでしょう。
うっかり丸いからなどと言おうものならば
「あなた知らなかったの。あれはたいがい四角いものよ」って叱られる。
『あれ』は利用者さんにはっきりと見えている。
何に使うどんなものだろう。
気になりながらトリートメントを終えると
利用者さんが片付けまで手伝ってくださった。
『あれ』の話が楽しかったから?。
帰り際、手を振ると利用者さんは手を振ってくれた。
廊下が曲がって見えなくなるまで私は手を振り続けた。
『あれ』がまだ気になった。
エレベーターの前で
振り返ると利用者さんがこちらに向かってくるのが見えた。
待っていると
「来ちゃった」とはにかんで利用者さんが笑った。
特養のエレベーターは暗証番号が付いていて
利用者さんが誤って外に出てしまわないようになっている。
私は暗証番号を押しながら
「ここから先は一緒に降りれないんです」言った。
冷たく聞こえたかな。言っていて寂しい気持ち。
「判ってるよ。見送りに来ただけなんだ」
利用者さんはドアが閉まるまで手を振ってくれた
また あれやこれやのあれのこと
たくさん聞かせてくださいね。