日時 1月31日(金)午後1時半より
場所 川西市文化会館(川西市丸の内町5−1)
「認知症の正しい知識と効果的な予防」
講師 鳥取大学医学部浦上克哉先生 (認知症予防学会理事長)
主催 川西市包括支援センター
暖かな天気に恵まれ、多くの方が参加していました。
浦上先生のお話はとてもわかりやすく、参考になりました。
・講演の前に、川西市福祉担当部長より、川西市の現状報告があり、7200人が介護保険を受けているが、その内の4200人が認知症で56%を占めているとの挨拶がありました。
・次に挨拶があった川西医師会の藤末先生からは、関係団体と徘徊ネットを作っているが、昨年11月から1月にかけて20人くらいの徘徊相談がきているとの報告がありました。
浦上先生の講演要旨を簡単にご紹介します。会員の山本さんが詳しく書いてくれましたので差し替えます。
正しく理解、早期発見を
認知症という名前は大変有名になったが、正しく理解している人は少ないように思います。認知症予防を考える前に、病気を正しく理解していただくことが大前提です。
認知症は単なる老化現象だと思っている方が多いが、脳の中に病気が起こっていて、物忘れのために社会生活に支障をきたすようになった状態をいいます。
例えばガンは早期発見だと、ほとんど完治できるようになりました。認知症も早く見つけて早く治療し、いい対応してあげることによって決して怖い病気ではなくなります。
物忘れには2種類あり、単なる物忘れは、正常な方が老化現象と共に次第に増えていく物忘れです。それに対して、病気による物忘れ、これが認知症による物忘れです。この2つを正しく理解していないと余分な混乱を招いてしまうし、早期発見を遅れさせてしまうことになります。
私が実際に外来で、患者様やご家族から伺ったり、気づいた症状で、認知症と後で診断した方のうち、重要な項目6つをまとめたものが、
①『時間や月日が分からなくなった』。
②『身近な家族の名前が分からなくなった』
③『大事なものが分からなくなってしまう』財布であったり、通帳・印鑑、こういったお金に関するものが行方不明になり、物取られ妄想がでる
④『大事な約束を忘れてしまう』
⑤『料理のレパトリーが少なくなる』
⑥『買い物など外出の機会が少なくなってしまう 』一般に出不精になる
アルツハイマー型認知症は、認知症の大体6割を占めるといわれています。物忘れという症状で発症して、しかも発症時期が明確でない。運動障害がないというのが特徴で、これは現実の医療機関で見過ごされてしまうことがあります。
治療薬としては4種類あり、アリセプトは14年前から発売され、レニミール、リバスチグミンパッチやメマリンと言った薬は、3年前から発売されていまして、治療に幅と奥行きが広がりました。私の経験では、大体5割位の改善効果があり、また、35%不変というのがあります。普通の薬だと、不変という場合は効果がないということになりますが、アルツハイマーのようにゆっくり進行する病気の場合は、不変というのは予防が出来ている可能性があるということになるので、自己判断で薬を辞めてしまわないようにしていただきたいです。意欲の改善という効果も見られます。
薬物治療と同時に、早期発見をして、早くご家族や周囲の方々にいい接し方をしていただきたい。認知症の人は記憶力は低下しているけれども、感情や心身の力や多くの機能が残っているので、いいところをしっかり見てほしい。怒られるばかりしていると、どんどん自信を無くしてしまわれるが、残っているいい能力をしっかりと認めてあげて、元気づけてあげると案外悪くならないです。私が特に大事だと思っていることは、本人の気持ちを聞いてあげることです。本人不在で勝手に決めてしまうということが現実によくおこっています。薬物治療・ケアをいい方法で、いいタイミングでしてあげることによって、ひとたび病気になったとしても、認知症の進行を緩やかにすることができる。これも認知症の予防になります。
認知症が非常に増えて、今から2年前までは200万人と考えられていましたが、昨年462万人と大幅な修正と、認知症予備群も400万人という発表しました。認知症予備群というのは、認知症にはなっていないが、なんの介入もしないで自然経過を見ていくと、2〜3年以内に認知症になっていきます。
アルツハイマー型認知症は認知症の代表疾患で、アミロイドβ蛋白がまず一番に脳の中に溜まって(老人斑)、次にリン酸化タウ蛋白が変化をおこして、近い将来細胞死を起こす。神経細胞死が起こると物忘れが起こってくるという流れです。一番最初に溜まってくるアミロイドβ蛋白は一度溜まったらもう溶けないと言われていたので、認知症は直らないと言われていました。ところが動物実験ですが、普通の環境で生活していると、アミロイドβ蛋白が多く溜まってきますが、いい環境においてあげると、アミロイドβ蛋白が溶けたという結果が報告されています。現在進行形で実験行なわれているので、私は近い将来アルツハイマー型認知症が治る時代がくると思っています。しかし、いくらアミロイドβ蛋白が溶けるといっても神経細胞が沢山死んでしまってからでは遅いので、神経細胞が死んでしまわないうちに、早期発見することです。
私が早期発見のための「物忘れ相談プログラム」を開発した時期に、鳥取県の地域包括支援センターの保健師さんが、「認知症が進行してからの相談ばかりなんです。もっと早くに相談に来てもらえるようないい方法はないんでしょうか」と相談を受けました。
琴浦町で平成16年から始めた方法は、一次スクリーニングとしてタッチパネル式で“物忘れ度”をみて、認知症の疑いと認知症予備群の方は2次検診に進む。認知症の疑いの方は専門医に受診をする。認知症予備群の方は、コミュニケーション、運動、知的活動というこの3つを加味した認知症予防教室に通ってもらうことにしました。その結果、点数が改善し効果が見られ、3年間追跡してみると、いい状態が維持できていたことから、介護保険の費用が大幅に削減できたということでした。
日記、運動、アロマセラピーも効果的
自分で出来る認知症予防は、頭に刺激のない生活をしないこと。創造的なことをする、短歌や俳句を作る、日記を書くこと、運動する、笑うというのもいいです。しかし、長続きしないと効果がないので、私はもっと簡単に認知症予防が出来るものをと、予防ツールの開発にも取り組んでいます。一つ手軽にということで、トリゴネコーヒーの開発をし、推薦しています。トリゴネコーヒーは、トリゴネリンという成分が多く含まれていて、神経突起の伸張作用が強いと言われています。もう一つお勧めなのが、アロマセラピーです。臭神経が侵され、次に海馬が侵されて、物忘れになるということが証明されているので、臭神経を効果的に刺激して、究極の認知症予防が出来るということです。嗅神経は再生能力が極めて高いと言われていて、アロマを始めたところぐっと点数がよくなりました。ただ、臭覚をやられない認知症の場合は効果が見られません。
私は認知症予防も学術的に捉えたいと認知症予防学会を立ち上げ、認知症予防の専門士を育てたいと思っています。
講演を聞いて
私が地域包括支援センターに勤務していた4年前頃、認知症の相談に来られる方はあまり多くなかったですが、来られたときには症状が進んでいて、家族が対応に困っておられ、その上、紹介する専門医が少ないと言う問題がありました。今でも似たような状況がありますが、早期発見に努めること、いい環境で過ごしてもらうことが認知症の予防に繋がることを再認識しました。
優しさをシャワーのように浴びせることをベースにして、あかるく あたまをつかって、あきらめないというスリーAの考え方は、動物実験ではありますが、アルツハイマー型認知症の原因物質であるアミロイドβを溶かすという力を持っていることが分かりました。もっと多くの方に広めていかなくてはと思いました。(報告 山本)