1995年1月17日、阪神地域を大地震が襲いました…。
マグニチュード7.2の「阪神・淡路大震災」は、死者6423名を出す大惨事となりました。
大阪に居を構える私も、この震災の被災者の1人でした。幸い命は取り留めたものの、電気・ガス・通信・交通といった生活のためのライフラインはズタズタでした。そんな中私たち被災者にとって、最も命に関わる深刻な問題が飲料水の確保でした。

日本人が1日に使用する生活用水(お風呂・洗濯・トイレ等)は、平均で約320リットルと言われています。そのうち2.5リットルを私たちは体内に摂取しています。この2.5リットルの水がなければ、人間は早くて3日、長くて12日以上は生存できないといわれています。お風呂や洗濯のための水などは望むべくもありませんが、2.5リットルの水の確保は、被災者にとって最重要問題でした。給水車が現われてくれましたが、水にありつくまでには、給水車の前にできた行列に半日も並ばなければなりませんでした。被災者達はそれぞれ疲労困憊していますし、片付けねばならぬ問題は山ほどありました。しかし、この行列に並んで水をもらわなければ、生命を危険に晒すことになります。まさに「命の水」でした。

それでも今にして思えば、この時の私にはまだ救いがありました。並んでさえいれば、飲料水を得ることができると解っていたからです。

世界に目をやれば、世界人口の実に20%にあたる12億人の人々は、安全な飲料水を得ることができずにいます。また30億人の人々が下水などの基本的な衛生設備の整わない状況下での生活を余儀なくされています。
世界では、水が原因で年間500万〜1000万もの人々が命を落としています。また子どもに限ってみれば、水が原因とされる病気で8秒に1人ずつの割り合いで小さな命が失われているのです。

水をめぐるこうした深刻な状態は、これからさらに悪化していくとみられています。現在深刻な水不足に悩まされている国は、31カ国ということになっていますが、2025年には48カ国、2050年には66カ国に増加すると予想されています。
そうなれば、水をめぐって国家や民族間の紛争も起こりえます。実際に、チグリス・ユーフラテス川の上流にトルコがダムを建設していますが、下流に位置するシリアに対して、反トルコ勢力を支援する場合にはダムを使って水の流入量を減らすと警告し、関係が険悪化しています。同様の争いはナイル川でも発生しています。「水をめぐる紛争」はすでに世界各地で起こっているのです。
水資源の豊かな日本で暮らす私たちは、蛇口さえひねればいくらでも水が出てくる生活に慣れきっています。平均寿命も世界一です。その感覚からすれば、水不足に悩む彼らの思いを想像するのは難しいかもしれません。

ところがこの水問題は、私たち日本で生活する者にとっても決して他人事ではないのです。穀物や家畜もそのままでは育ちません。生産するには、当然のことながら「水」が必要です。その量は、トウモロコシなどの穀物で製品の自重に対し2000倍、家畜では飲料用の水が加わるため、豚肉で6000倍、牛肉で20000倍もの大量の水が必要とされています。
こうしたことから考えると、世界有数の輸入大国である日本ではその輸入される穀物などを通して、海外から毎年大量の水を輸入しているのに等しいのです。しかし、日本へ大量に輸出している国に、豊富な水資源があるとは限りません。

また、衛生的で安全だと思われている日本の水道水も、実は様々な問題を抱えています。
現在、日本では水を浄化する際に、大量のアルミ系凝集剤が使用されています。その一方で、アルミニウムとアルツハイマー病の因果関係が取り沙汰されています。
さらに日本では、殺菌のために大量の塩素を使用しています。この塩素と原水に含まれている有機化合物が反応して、発ガン物質であるトリハロメタンが生成されます。水道水のみで金魚を飼おうとするとすぐに死んでしまうのは、これらの物質が原因であるといわれています。

こうした物質が微量ながら水道水には残留しています。厚生労働省は、微量であれば安全だとお墨付きを与えていますが継続的に使用した場合の人体に蓄積される危険性まで、考慮しているのでしょうか。
衛生的で安心して飲める水の確保は、全人類の課題です。震災に遭い、給水車の前の行列に並んだ体験を持つ私は、そのことを痛切に感じました。
「安全な飲料水を、世界中の人々が確保するにはどうすればいいのか…」
私の頭の中には、この問いがずっと離れませんでした。

そんな時私が出会ったのが、納豆のネバネバ成分であるポリグルタミン酸です。以前から高い保水性は知られており、化粧品の原料などにも利用されてきた物質です。「これを水の浄化に利用できないか」そう思いついた私は、先駆けて研究を始めました。
そして、ポリグルタミン酸を原料とした、環境や人体に無害な水質浄化剤「PGα21シリーズ」が誕生しました。もともと納豆に含まれている成分なので、安全性が高く、生分解性であるので環境に負担をかけることもありません。少量のPGα21シリーズがあれば、大量の汚れた水を浄化することができます。さらにアルミ系凝集剤と併用することで、高い浄化能力を発揮します。また、アルミ系凝集剤のアルミ成分をも凝集し無害化します。このPGα21シリーズを広く世の中に提供するため、2002年に日本ポリグル株式会社を設立しました。無害で処理能力の高いPGα21シリーズに勝る水質浄化剤は、世界中どこを探しても存在しないと私たちは自負しています。

私たちはこのPGα21シリーズの能力を知ってもらうために、公園の池やお堀の水を浄化する仕事も行ってきました。驚くほどのスピードで水が浄化されるため、多くのマスコミに幾度となく取り上げられ、情報をキャッチしたフィリピン・インド・メキシコなどの途上国関係者からの問い合わせも増えています。私が目的としているのは、単なる池の浄化ではなく、水不足で苦しむ途上国の人々を救うことです。その目的に照らし合わせれば、一刻も早く彼らの要請に応えたいのですが、一度に全ての要請には応えられません。より多くの要請に応えられるよう、国際ボランティア学生協会(IVUSA)などの国際ボランティア団体と連携をとり、安全な水を多くの人々が早く使用できるようにしていきたいと考えています。

私自身もその目的のため、日本だけでなく、世界各地を駆け回っています。そんな私が尊敬しているのは、初めて日本地図を作成した伊能忠敬です。
伊能忠敬は50歳を過ぎてから測量を学び、それから全国を測定して回りました。当時、私が生まれた九州の天草や蝦夷地に分け入ることは、現代人がアフリカ奥地やアマゾンに足を踏み入れることよりも、危険で困難を伴う作業だったに違いありません。しかも当時の50歳は現代人の年齢に換算すると、おそらく70歳くらいになるのではないでしょうか。それほどの高齢でありながらも、高い志を持った伊能忠敬は、長い年月をかけ日本地図を完成させました。その苦労を思えば、私のしていることなどまだまだ甘いと思えてくるのです。

「私の手で、世界中の人々が安心して生水を飲めるようにしてやる。」
私のオフィスにある日本地図を眺めるたびに、その念をますます強めているのです。